鉄鉱石:上昇後の低迷は中国への警告か?

  • 29 Jun 2016
  • By Erik Norland

Erik Norland(CMEグループ・シニアエコノミスト & エグゼクティブディレクター)

昨年12月15日の安値から2016年4月22日に高値を付けるまでの期間、鉄鉱石の価格は71%高と目覚ましい上昇をみせた。この回復局面は、中国の景気後退が食い止まり、2016年の政府見通しに沿って 6.5%~7.0%近辺の成長率で安定するとの楽観的な見方が浮上したタイミングと一致していた。中国は安定するかもしれないが、鉄鉱石価格は、4月のピークから20%以上下落した。鉄鉱石の足を引っ張っている要因はなにか、また銅よりも変動が大きいのはなぜか。(図1)

図1:鉄鉱石は過去2年間で銅よりも変動がかなり大きい

図2:鉄鉱石の鉱山供給量は銅を上回る伸びを示している

鉄鉱石の直近の下落は、供給と中国という2要因に主導されているようだ。鉄鉱石の供給の伸びは、ほぼ全ての他の金属を上回っている。鉄鉱石鉱山の供給量が2002年以来3倍増に達したのに対し、銅鉱山の供給量は同時期に37.5%増えたに過ぎない。鉄鉱石鉱山の供給量は2015年に2.9%減少したものの、2015年の生産量は、それでも史上2番目の高水準であった(図2)。鉄鉱石市場は、依然としてかなりの供給過剰状態になっている。

鉄鉱石生産者は、主として中国の需要を満たすために生産を増やした。リサイクルされた鉄スクラップを用いて鋼材ニーズの大部分を満たせる米国、日本、西欧とは異なり、中国は、インフラ・ニーズを満たすために新たに製造した鋼材に概ね依存している。現在の中国は、経済規模が1980年から17倍に達しており、中古車や解体した建物の使用済み鋼材を再生する手段をほとんど持っていない。 大半の工業用金属において、中国は消費量全体の40~50%を占めているが、過去7年間において、世界の鉄鉱石供給全体に占める比率は3分の2近くに達している。中国は世界最大の鉄鉱石生産国ではあるとはいえ、豪州とブラジルを中心に世界の生産量の25%を依然として輸入している。 このため、鉄鉱石は、中国の景気動向に極めて影響を受けやすい。

2) 鉱山の供給は、価格を左右する主な要因であり、価格は二次供給と消費を左右する。

図3:2015年第4四半期の中国の総債務の対GDP比はユーロ圏と米国を上回った

そのため、中国政府が昨2月に景気刺激策を発表した際、これが鉄鉱石の最近の低迷からの回復に寄与した可能性がある。中国人民銀行(PBOC)は、預金準備率と金利の両方を引き上げて刺激策を支えた。全般的には、コモディティ価格と新興国通貨は反発し、人民元の下げ圧力の一部が緩和された。ただ、ここ数週間は、鉄鉱石と人民元は共に軟調な展開に戻っている。中国の高水準で推移する民間部門の債務が、その理由の一つかもしれない(図3)。

中国の債務水準は急増している。国際決済銀行(BIS)によると、2015年の中国の総債務水準(公的+民間)の対GDP比は、20.2%上昇して254.7%に達した(図4と図5)。中国で最大の上昇率をみせたのは、既に債務負担がかなり重い非金融企業部門であり、債務水準は157%から171%へと14%上昇し、GDPを上回るペースで伸びている。家計と政府の債務の対GDP比は、それぞれ約3%上昇した。

債務に関して、単年度における対GDP比の20%上昇が気掛かりである理由は、以下のようにいくつか存在する。

  • 中国の債務水準は現在、日本(1990年)、ユーロ圏と米国(2007年と 2008年)でそれぞれ債務危機が勃発した当時に匹敵する水準に達している。
  • 債務水準が低いと、信用の積み増しの蓄積がすぐにGDPに加わる。個人や企業が借入を行うと、その支出や投資は、別の個人や企業にとっての収入となり、国内総生産に追加される。しかし、債務水準が高くなると、新規融資は既存債務の借り換えが中心となるため、GDPにほとんど追加されないことになる。
  • 債務が蓄積したため、中国経済は成長が大幅に減速し始めている(図 6)。債務の蓄積ペースが加速すれば、短期的には成長率が安定する可能性があるが、景気後退の深刻化や成長鈍化の長期化といった潜在的な長期コストになりかねない。
  • 米国、欧州および日本の当局は、債務が高水準に達した状態での財政・金融政策による景気刺激策は、効果が低くなることを認めている。

 

図4:中国の総債務の対GDPは254.7%と、 米国、欧州、日本の危機の勃発時に近い水準

図5:中国は、2008年に起きた世界金融危機に借入拡大で対応

図6:負債の累積により、中国経済は減速

また、中国政府は、債務水準に対して懸念を抱くようになっているのは明らかだ。2016年5月10日、中国の権力構造のトップに近い「権威筋」と名乗る人物は、人民日報に匿名で寄稿し、中国の非金融企業部門の非効率な企業に対する行き過ぎた「やみくもな」信用拡大に対し、警告を発した。これは、巨額の信用が供与されているとの暗黙の了解があったのだ。また、同記事は、サプライサイドの構造改革を行わなければ、中国の景気回復は、U字型やV字型よりもむしろL字型を描きかねないとも指摘した。いずれの場合でも、L字型の回復(回復がない)となれば、危機後の日本や欧州で生じた状況に近くなろう。 金融危機勃発直後に金利を実質上のゼロ近辺に引き下げて大規模な量的緩和を開始した米国と英国でさえも、回復は鈍く一様ではない。

では、鉄鉱石価格の下落は、中国に関して何を教えてくれているのか?確かに回答するのが難しい問題である。鉄鉱石の価格は、グローバル市場の供給過剰を含め、多数の要因に支配されているからだ。とはいえ、金属の直近の下落局面は、中国の減速の再開を示唆しているかもしれない。また、中国では金融・財政緩和が最近導入されたものの、予定された経済成長率に達しない可能性もある。

鉄鉱石価格が下げを再開し、中国経済が期待通りに回復しなければ、これは、多くのコモディティ輸出国にとって悪材料になりかねず、とりわけ鉄鉱石の二大輸出国である豪州やブラジルはそうなろう。豪ドルとブラジルレレアルは共に、鉄鉱石先物と正の相関関係がある(図7と図8)。

図7:鉄鉱石は、豪ドル/米ドルのクロスレートを左右する要因になろう

図8:鉄鉱石はブラジルレアルと正の相関関係がある

熱延鋼板と鉄鉱石の動きの乖離

図9:熱延鋼板と鉄鉱石は中国の粗鋼生産削減を背景に動きが乖離

鉄鋼価格は最近、急伸しており、鉄鉱石価格との連動は完全に断ち切れた(図9)。表面的には、熱延鋼板の価格上昇は、鉄鉱石にとって明るい兆しと解釈されるかもしれない。ベースメタルの供給者にとっては都合悪くも、鉄鋼価格は、中国の粗鋼生産量の削減観測を主因に上昇しており、非効率の生産者の一部は、おそらく生き残りに必要な信用の不足に直面するとみられる。これは、供給の縮小という意味では鉄鋼にとって好材料ではあるが、需要減少という意味では鉄鉱石にとって悪材料である。 鉄鉱石と熱延鋼板はいずれ、相関関係を取り戻すと思われるが、すぐには起こらないかもしれない。

結論:

  • 鉄鉱石は、中国の動向に極めて影響を受けやすい。
  • 中国が最近導入した金融・財政政策による景気刺激策は、民間部門の高い債務水準を背景に予定通り機能しない可能性がある。
  • 中国は、粗鋼生産量を削減しており、鉄鋼価格にとっては好材料ではあるが、鉄鉱石にとっては悪材料である。
  • 鉄鉱石は、依然として大幅な供給過剰状態にある。
  • 鉄鉱石価格の下落再開によって、豪ドルとブラジルレアルが下落圧力にさらされかねない。

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著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミストです。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信しています。

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