ユーロの材料を考える:銀行貸し出しの拡大、米ドル金利引き上げ、 ギリシャとイギリスのEU離脱

  • 15 Jun 2015
  • By Bluford Putnam

これまでの経験から、対ドルでのパリティーは通過点に過ぎず、この通貨がさらに下落すると予想していた多くの市場アナリストたちは、足元のユーロ反発相場に困惑させられる結果となっている。米国中銀のFRBによる政策金利引き上げの可能性、そしてギリシャによる債務不履行の可能性が高くなり、先の総選挙の結果を受けたイギリスでは、EU離脱に関する国民投票の実施が確実視されているなか、ユーロは対米ドルで、年初来の安値から反発・上昇する状況となっているのである(図1)。この相場見通しの誤りは、どこから来ているのだろうか?

米ドル金利引き上げ

大方の市場予想を上回る内容となった米国の5月の雇用統計は、FRBがゼロ金利政策を終了し、政策金利引き上げの第一歩を踏み出す、という市場の期待を高める結果となった。常識的には、金利が引き上げられることで、米ドルは為替市場で上昇することになる。しかしながら、金融市場とは先読みのゲームなのであり、引き上げのタイミングは別としても、FRBの政策金利引き上げ観測自体は既に、彼らが飼っているペットを含めて、市場参加者全てが周知する状況となっている。例えばユーロ/米ドルにおいて、米ドルの利上げ観測は既に120%、相場に反映されてしまっているのである。従って、ユーロがさらに下落するためには、そのファンダメンタルズについて、市場がここまでに織り込んでいない事象が生じるなど、新たな材料が必要となる。

図1

欧州市場での与信拡大復活

米国中銀のFRBによる政策金利引き上げの可能性、そしてギリシャによる債務不履行の可能性が高くなり、…… ユーロは対米ドルで、年初来の安値から反発・上昇する状況となっているのである。この相場見通しの誤りは、どこから来ているのだろうか?

与信(銀行による貸出)が拡大しなければ、景気は失速する。そして、欧州においてはここ数年来、与信の拡大が見られなかった。これについては、2013年から翌14年にECB(欧州中銀)が金融機関に対して実施したストレステストの副作用として、銀行などがバランスシートの正常化を推し進める過程で、貸出の拡大に消極的となったことが指摘されている(図2)。実際、銀行の多くは、金融危機を背景にECBから提供された緊急市場流動性供給ローンを完済することが、ストレステストに適合する最適な方法である、との認識を強めていたのである。結果、欧州の主要銀行で同期間に資産規模を縮小したのは、ECBのみだった。発表によると、2012年末から2014年10月の間に、ECBの資産規模はなんと、9660億ユーロも縮小したのである。ただ、ストレステストが終了したことから、欧州の銀行による貸出は再び拡大するかもしれない。特に、ユーロ安を背景に、輸出業者には売上拡大の好機が訪れている、という背景もある。これはユーロにとって好材料であり、市場にとっては予想外、もしくは適切に勘案していなかった材料であると言える。

ギリシャ、イギリスのEU離脱リスク

与信拡大が多少なりとも景気の好影響になるとすれば、これはユーロの強気材料である。一方で、ユーロのリスクとして、2つの内部要因を考える必要がある。1つは、ギリシャの債務不履行/ユーロ離脱の可能性であり、そして、保守党勝利に終わった5月のイギリスでの総選挙の結果として、同国とEUの関係に変化が生じる可能性である。

図 2

ギリシャ問題については、ECBが通貨ユーロを護るために設立された組織であることを忘れてはならない。例えばドラギECB総裁はこれまでに、その目的を遂行するためには「手段を択ばない」とも発言している。そして、実際にECBは手段を豊富に有していることから、ギリシャによる債務不履行、またはユーロ離脱が現実のものになった場合、短期的なボラティリティーの高まりは避けられないとしても、バックネットに控えているECBは、欧州市場の混乱に対して積極的に対応するものと予想される。その意味では、ギリシャ問題が表面化した場合、ユーロが上昇することも考えられる。株式市場などでは、不採算部門を切り離した企業の株価が上昇するのは、驚くに当たらない相場現象ともなっている。

一方で、イギリスとEUの関係変化は、より複雑な問題である。イギリス経済はEU市場に簡単にアクセスできることを必要としているし、EUが自ら認める以上に、欧州市場はロンドンの金融市場の効率性に依存している。ただ、こうした背景のなかで、イギリスの民意が反EUに偏重しているのも事実である。従って、国民投票が本当に実施された場合、EU離脱が大勢となる可能性は充分にある。この国民投票の結果に法的な拘束力はないものの、EU離脱の民意を受けたカメロン首相は、EU内でのイギリスの立場を再交渉し、さらにEUの規制からロンドンの金融市場を護る上で、大きな優位性を手にすることになる。再構築されるイギリスとEUの関係が双方に良好なもので、これまでほど好戦的なものでないとすれば、英ポンドとユーロにとっては好材料となる。

 

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