金銀価格を左右する5要因

  • 18 Mar 2015
  • By Erik Norland

金銀価格は2011年の高値から大幅に下落している。銀は1オンスあたり約50ドルの最高値をつけた後、現在は同20ドル以下で取引されている。 金は1オンス1900ドルを超えた後、現在は1200ドル付近となっている。両貴金属は、最高値から大きく下落して取引されているだけでなく、インフレ調整後の1980年の高値からも下落しており(図1,2)、今後の上昇および下落余地の目安にもなっている。

下落の要因は少なくとも5つあるように思われる

1)       米経済の着実な回復で、米連邦準備理事会は量的緩和の終了と、早くても6月の利上げ実施について検討を可能となったこと。
2)       欧州中央銀行 (ECB) がイタリア、スペインなど財政懸念のあるユーロ参加国の国債買い入れを約束することで、リスクプレミアムを低下させ、欧州の債務危機を回避することに成功したこと(少なくともギリシャを除いて)。
3)       金や銀を含む国際商品市場の取引通貨である米ドルが堅調に推移していること。  
4)       工業用金属、原油、天然ガス、農産物など他の多くの商品市況は米ドルベースでは下落していること。
5)       中東情勢は、現時点では、ペルシャ湾の主要産油国には波及していないこと。

では、これらの要因が金銀相場にどう影響を与えているか、見てみよう。

図1

図2

米国の金融政策

2009年以降、FRBはコアインフレ率より低く政策金利(FF金利)を保持するという珍しいスタンスをとっているが、これは過去において数えるほどしかないものだ(図3)。

1)    1969-1970年:  穏やかな景気後退に対抗して利下げ。ニクソン政権はその後、賃金と価格統制でインフレ抑制をはかった。
2)    1974-1977年:  FRBは誤って、第一次石油危機からのインフレは一時的なものと解釈した。 これは1977-1980年に激しいインフレとなって、高金利と深刻な不況を招いた。
3)    1992-1993年と2001-2004年の景気回復期において、若干のマイナス実質金利の期間があった。

図3

図4

FRBがFF金利をインフレ率よりも低く維持しているときは、金銀価格は高騰する傾向が見られるる。(図5および6)

図5

図6

この傾向は、市場がFRBの利上げ、または金融引締め政策(量的緩和の終了など)の予想を始めるまで続くと思われる。

我々は、FRBは2015年に下記の理由から金融引締め政策を始めると見ている。 

1)    労働市場の力強い回復。時間当たり賃金は前年比2.0%増、労働時間は0.6%増。これを受けて2015年2月の平均賃金は前年同月比2.6%増と低インフレ環境下においても伸びはしっかり。
2)    就労者数は2015年2月に前年同月比 2.4%増となり、総労働所得の増加は​​5.0%(就労者数 +2.4%と平均賃金 +2.6%)、これは消費者支出の大きく伸ばすであろう。
3)    FRBは、最近のエネルギー価格下落によるインフレ低下を一時的なものと見ている。
4)    経済の他の分野は堅牢で、企業収益は過去最高を記録し、住宅市場はゆっくりと回復を続けている。

FF金利先物では、9月までの利上げと、その次の利上げを2016年1月 と見込んで価格に反映しているが、そのような動きは前倒しとなる可能性があり、 FRBが 6月にも利上げを実施しても我々は驚かないだろう。

もし、FRBが予想通りに利上げを実施したならば、金銀価格に圧力をかけることになる。その場合、金が1オンス1000ドルを下回り 3ケタ台となることや、銀が1オンス10ドル以下になる可能性も否定しない。

しかしながら、この見通しにはリスクが伴う。株式市場は企業収益が維持されると見込んで取引されてきているが、もし企業収益の落ち込みが2015年中にも始まるならば、株式市場は 2011年以来初めての大きな調整を迎える可能性がある。アラン·グリーンスパンとベン·バーナンキの元FRB議長たちは、株式市場低迷時には利下げ(または量的緩和)を実施することで知られ、「グリーンスパン・プット」「 バーナンキ・プット」との言葉も生まれた。現FRB議長ジャネット·イエレンのもとでも、そのようなプット・オプションは存在するだろうか?真偽の程は定かではないが、イエレン議長とFOMCが、株式急落時にあえて利上げによって市場のボラティリティを悪化させるようなスクを犯すとは思えない。株式市場が調整局面に入った場合には、FRBは利上げを遅らせると思われ、一時的にでも金銀価格は上昇するかもしれない。

まとめ:米金融政策の見通しは2015年の貴金属価格にとって、上振れよりも下振れリスクの方があると予想するが、何らかの理由でFRBが利上げ実施を遅らせることがあるならば、それは金銀相場を支えるかもしれない。

欧州情勢

金価格はドル建てであるため、他国の中銀動向よりも、FRBの金融政策の変更により大きな影響を受けるが、だからと言って、米国の事情にのみ左右されるわけではない。   

大西洋の向こう側において、欧州中央銀行 (ECB) がイタリア、スペインなど財政懸念のあるユーロ参加国の国債買い入れを約束するという有望策が報われようとしている。この確約と大規模な量的緩和プログラムの発表に伴い、ドイツ金利はゼロ近くまで抑えられ、イタリア、スペイン両国の利回りも米国債を下回っている。(図7)

図7

ユーロ圏での緊張緩和は、一般的には金銀相場には悪材料となる。ユーロ圏崩壊の懸念後退は、インフレと不確実性の時代における貴金属の資産保全効果を見込む金投資家の失望を誘うからだ。

貴金属投資家にとっての良いニュースは、欧州の金利市場安定のプロセスは終盤に近づいていることで、簡単に言えばこれ以上の金利低下は考えられないことだ。ドイツ債利回りは残存6年までマイナスであり、イタリアのBBB+ 債やスペインのBBB債の利回りは、アメリカのAAA(コンポジット)債の利回りを下回っている。ECBが購入プログラムを開始すると、金利が少し上昇する可能性がある。これは必ずしも金銀相場の助けにはならないが、金銀の長期保有者にとっては、ここ数年のヨーロッパ情勢が収束したとはまだ言い切れない状況が残る。

ギリシャは例外だ。 依然として金利は9%を超えており、グレグジット (Grexit)、つまりギリシャのユーロ圏離脱が今年後半もしくは2016年に起きる可能性がある。ただ、既にギリシャへの欧州の民間エクスポージャーはユーロ圏経済の 2%以下に抑えられており、ギリシャ離脱があってもインパクトは限定的なものとなるだろう。

まとめ:欧州情勢の金銀相場への今後の影響は中立と見ている。

図8

米ドル通貨

昨年、米ドルは他国通貨に対して下記の理由から急騰した。

1)    米国経済の伸びが様々な指標によって証明された。
2)    景気の強さが、FRBに量的緩和終了と2015年の利上げを真剣に検討することを可能にした。
3)    多くの他の国や地域とは金融政策が正反対の方向に向かっている。ユーロ圏ではECBが量的緩和プログラムを開始する、日本では日銀が金融緩和政策を継続、オーストラリアやカナダでは利下げが実施された。  
4)    商品市況の下落は多くの新興市場の通貨安を招いた。

現在のドル高傾向が継続するかどうかの判断は難しい。いづれにしても、上昇傾向にある限り、ドル建ての金価格には圧力がかかるであろうが、だからと言って、買い手が他通貨建てに乗り換える必要もないだろう。(図 9 、10)

図9

図10

ドル建ての金価格は2011年9月の最高値から急落しているが、英国ポンド (GDP) や 人民元 (RMB)といった比較的堅調な通貨においても同じ傾向が見られる。弱い通貨、たとえば日本円(JPY)やロシアルーブル(RUB)においては、この傾向は見られない (図 9 、10)。

これは金と銀にとって諸刃の剣となる。インド、日本、ロシアの買い手にとっては、金は自国通貨での価値を守り好都合ではあるが、一方で視点を変えると、将来的にはもっと購入する余裕があるであろうと考えれば、足元での購入は割高に感じることとなる。

まとめ:ドル高基調はまだ続く可能性があり、その場合は金相場にとっては悪材料となる。米国外での予想以上の景気上昇や、米国の下振れショックがあった場合は、ドル相場にとって不利となるが、しかしながら、貴金属相場にとっては好材料となる。 

他の商品市況

おおまかな予想としては、原油価格がバレル当たり100ドルに向け早期にリバウンドする可能性は低く、最も可能性の高いシナリオは同30ドルから70ドルの幅広い取引レンジに2015年はとどまり​​、2016年と2017年にかけてもその傾向が続くのではないか、と見ている。

石油生産者は、債務を負った民間企業であろうと、国家主体の公営事業であろうと、現在の生産量を削減して収入の喪失をもたらすような事が出来る立場にはない。

現時点では、サウジアラビアには減産する様子はない。サウジアラビアにとって、原油価格の下落の悪影響は自国だけにとどまらないからだ。原油安は、現在の生産へのインパクトは少ない一方で、米国や他の地域でのフラッキング投資を抑えることになり、数年先の価格上昇にとつながる。また価格下落は、サウジアラビアとは対立関係にあるイランとロシアをも妨害し、またイスラム国家過激グループの収入にも打撃を与える。  

銅やアルミニウムなどの工業用金属も大幅に低迷している。これは、中国の成長減速に関与していると思われる。2015年中はこの状況は変わらず、中国の成長ペースは引き続き鈍化すると予想している。

農産物価格はマクロ経済の影響が少なく、主に天候により左右されるので、予想が一番難しい。

地政学的リスク

商品価格の崩壊は、特に主要産油国で政情不安を生じる可能性があり、これは金銀相場にとっては好材料となる。一方で我々は、その他の商品市況は2015年、2016年も低迷すると予想しており、これは貴金属市場にも圧力となるだろう。 (この件については、別レポートを参照下さい: Oil Collapse: Winner and Losers, The Geopolitical and Economic Consequences of Lower Oil Prices).

まとめ:  2015年は、金銀価格の下降リスクが上振れリスクを上回ると予想しているが、こうした中で、上振れリスクとしての注意点は下記の通り。 

1)    米国株式市場の調整または米国景気の減速により、FRBが利上げを遅らせる、または極端な場合は、さらなる金融緩和に至る。
2)    地政学的リスク。特に中東や主要産油国における政情不安。
3)    ドル通貨の下落。
4)    ユーロ圏存続問題の再燃。.

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