金オプションは激安か?

  • 21 Jul 2015
  • By Erik Norland

ここ1年、原油や鉄鉱石など大半のコモディティが大荒れの相場となるなか、比較的安定した値動きをみせている銘柄がある。金(ゴールド)だ。事実、ここ数カ月、金オプションのIV(インプライドボラティリティ)は過去最低の域にある(図1)。とはいえ、市場は金を保有するリスクについて本当に理解しているのだろうか?

金オプションのIVの方向性と金価格の方向性は、完全ではないものの、密接に結びついている。株式と同じように、値上がり時よりも値下がり時のほうが、金のIVは増加しやすいのだ。2010年11月から2015年7月にかけての日次データをみると、金先物オプション(四半期限月)のIVと金価格の相関性は、マイナス0.38であった。したがって、全く同じではないものの、IVの増加と金価格の下落には相関性があるといえる(図2と図3)。金オプションのIV増加が気になるのであれば、「何が金の弱材料となるか?」についても考えるべきだろう。

図 1.

図 2.

図 3.

金のRVとIVが低い水準にあるからといって油断は禁物だ。

金の弱材料について話を進める前に、かつて金が強気相場にあったとき、金オプションのIVが増加していたことについて触れておきたい。特にこれがあてはまるのが2011年8~9月だ。ちょうどそのとき、金はドル建ての名目価格で史上最高値を付けた。そのため金価格下落の事態に備えてオプションを購入する投資家が現れたのだ。 そして金が値を下げると、金のIVはさらに激増した。30日満期で理論的に計算した金先物オプションのIVは36.2%にまで達した。しかしそれ以降は、基本的に金のIVが増加するのは金価格が下落したときだけになった。金価格が上げているときは、IVは減少傾向となる。 それでは、金先物オプションのIVが増加する原因について、いくつか挙げていこう。

1) インプライドボラティリティと実現ボラティリティが異常に低い

現在、金オプションのIVは過去最低の域にある(2015年7月14日に12.1%を付け、21日は18.8%)。金のIVにさらなる下げ余地はほとんどない。一方、上げ余地は大いにある。これほどまでに金のIVが低い理由として真っ先に挙げられるのが、同様に過去30日の実現ボラティリティ(RV)が約8.7%と非常に低いことだ。1975年からの平均は17%ぐらいであり、現水準のほぼ2倍だ(図4)。QuikStrike(訳注:CMEのオプション理論価格分析ツール)が稼働して一連のIVデータを入手できるようになった2010年11月以降、RVとIVの平均はどちらも16%である。つまり、長期の平均であれ、中期の平均であれ、比較すると金のRVは異常に低いところにあるのだ。

図 4.

2) 鉱山からの供給増が金価格の足を引っ張っている

以前『貴金属の生態系力学: 金と銀のミクロ経済』で指摘したように、貴金属価格の年変化の50%程度は、鉱山からの供給で説明がつく。しかも金鉱からの供給は、金価格だけでなく、銀価格にも影響する。同様に銀鉱からの供給も、金価格に影響するのだ。供給が増加すると、価格は下げやすくなる。

2009年以降、金鉱からの供給が急激に伸びている。この伸びが2011年9月から約40%下げている金価格の下押し要因となっているのだろう。

この下落によって早ければ2015年後半にも金鉱からの供給は縮小し始めるだろうと予測する向きがある。しかし、この考えに私たちは懐疑的だ。金価格は現在、1トロイオンス当たり1150ドル近辺で推移している。2011年9月に付けた1900ドルの高値圏からはかなり低いとはいえ、大半の生産コストの推定値をまだ上回っているのだ。メタルズフォーカス社によると金鉱の運営にかかる全維持コスト(AISC)は世界平均で1トロイオンス当たり982ドルである(図5)。したがって、現在の価格は、新規鉱山の開発や既存鉱山の拡張(少なくとも過去10年間にみられたような比較的急速な拡張)に向ける投資を縮小する理由にはなるが、現在稼働している鉱山で生産削減を考慮する大きな理由にはならないだろう。

図 5.

しかも、金鉱の現場コスト(トータル・キャッシュ・コスト)は平均して1トロイオンス当たり700ドルを少し上回るくらいである。これは「金の生産が縮小されそうな水準」という意味で、より適当な指標といえるだろう。実際のところ、国別に金鉱のコストをみてみると、現在の金価格は、ほとんどの国の全維持コストを上回っており、例外なくどの国の現場コストも上回っている(図6)。1トロイオンス当たり1150ドルなら、金鉱の経営はプラスのキャッシュフローを生む事業となるのだ。金価格が現水準を維持もしくは上回っているかぎり、金鉱の生産が縮小していくと考える理由は特に見当たらない。

図 6.

金鉱の生産が予想よりも増加し続けた場合は、金価格の下押し要因となるだろう。そして金先物オプションのIVを引き上げることになりそうだ。一方、金鉱の生産が減少した場合は、金オプションのIVを歴史的低水準に押しとどめることになるだろう。

金価格が暴落した後の80年代前半に注目してみよう。金鉱からの供給は19年連続で伸びている(図7)。ここからはっきりするのは、いったん鉱山に設備投資が向けられると、それが埋没費用(サンクコスト)となり、キャッシュフローがマイナスになるまで鉱山は生産を続ける必要があるということだ。しかも、マッキンゼー・アンド・カンパニー社が最近のレポート『Productivity in Mining Operations: Reversing the Downward Trend』で指摘しているように、あらゆる鉱山が生産性を向上させる大きな可能性を秘めている。それがこれから数年で達成されるようであれば、金採掘の損益分岐点はさらに低くなるだろう。

図 7.

3) 金価格が原油価格など他のコモディティからの引力に逆らっている

前回のコモディティ大相場では、原油が金価格を引っ張った。原油が上昇し始めたのは1999年である。その3年後に金が長い上昇軌道を描いた。同様に原油が天井を打ったのは2008年で、その3年後の2011年に金が史上最高値を付けた(図8)。2014年に原油が暴落し、2015年に在庫が増えるなか金価格の上昇を支える材料がないのであれば、金は原油に追随して下値を探っていくのか迷うところだ。

原油―金レシオ(WTI原油と金の比価)は1トロイオンス当たり22.7バレルであり、もはや歴史的天井圏ではなくなったものの(2月記事『原油と金の比価が語る世界経済』参照)、過去平均の16バレルよりも依然として高いところにある(図9)。仮にWTIの価格が一定で、原油―金レシオが過去平均に戻ってきたとすると、金価格は1トロイオンス当たり約800ドルだ。これは鉱山の損益分岐点の少しばかり上である。もちろん、原油―金レシオが今にも長期の過去平均に戻るはずであるとか、そうなるだろうと考える理由は特にない。とはいえ、もしそうなれば、金オプションのIVは相当高くなるだろう。

図 8.

銀と金の比価もまた過去の水準よりも少し高いところで推移している(図10)。金と銀にある程度の代替性があるとすれば、これもまた金に強材料とはならないかもしれない。宝飾業者や投資家が、金との乖離をいつもよりもさらに広げるよりも、むしろ銀の利用を好む可能性があるからだ。

 

図 9.

図 10.

4) 米国の金融政策と米ドル

ジャネット・イエレンFRB(米連邦理事会)議長は、彼女と大半のFOMC(米連邦公開市場委員会)メンバーが2015年末までの利上げを望んでいると明らかにした。しかし、今のところ市場は懐疑的だ。FF(フェデラルファンド)金利先物は2016年1~3月期まで利上げを価格に十分に織り込んでいない。しかもイエレン議長はFOMCに弁解の余地を与えている。FRBがデータに依存していることを明らかにしたのだ。その意味で、データは必ずしも協力的ではない。米国の雇用、労働所得、住宅部門の伸びは堅調であるものの、2015年上半期の小売売上高(自動車とガソリンを除く)は年換算で1.8%増と鈍化している。インフレ率は異常に低いままだ。

金相場にとって非常に重要なのは、実際にFRBに動きがあったときでも、あった場合でもない。むしろFRBの動向に対する予測が徐々にどのように現れてくるかだ。金価格の日々の変動とFF金利先物の日々の変動をみてみると、相関がさらに大きくマイナスになっていると分かる(図11)。

したがって、FOMCからのいかなる経済データや経済政策の声明であれ、利上げ観測を繰り上げるものであれば、どちらかといえば、金は値を下げることになるだろう。そしてその延長上で、金オプションのIVは増加しそうだ。もちろん、その逆もしかりである。低調な経済データでFRBの利上げ観測が後退すれば、金にとっては下支え要因となるだろう。事実、2015年と2016年の利上げ観測が著しく後退したことは(図12)、ここ数カ月、金価格が支えられ、また原油や銀、鉄鉱石などの暴落に巻き込まれずに済んだ一因であると考えられる。

 

図 11.

図 12.

また、FRBの利上げ観測が前倒しされた場合(つまり現在の市場予測よりも早くに利上げがあった場合)、米ドルの下支え要因にもなりそうだ。強いドルは金や他のコモディティにとって悪い知らせとなるであろう。前回の金に関する記事でも指摘したように、インドルピー、日本円、ロシアルーブル、ブラジルレアルといった世界の弱い通貨でみれば、金価格は比較的安定している。その情報は興味深いとはいえ、ドル建ての金価格に基づいている金オプションのIVを大きく変える要素ではない。

結論

金のRVとIVが低い水準にあるからといって油断は禁物だ。確かにFRBの2015年内早期利上げ観測が後退したことで、金が他のコモディティに追随して劇的に下げることは防がれた。しかし、ボラティリティの水準が異常に低く、米国の金融政策が変化するかもしれず、鉱山供給の増加が予測されるとすれば、金には大きく値を下げる(そして上げる)リスクが残されており、ボラティリティが跳ね上げる可能性がある。結局のところ、金は主にインフレヘッジあるいは金融危機に対する防御策として購入される。そして今のところインフレは全く見当たらず、中央銀行は市場を支えている。過去は必ずしも良き道案内にならないとはいえ、今私たちは「嵐の前の静けさ」を経験しているのかもしれない。用心するに越したことはないだろう。  

 

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