金:2016年上半期に検証すべき6つの要因

  • 20 May 2016
  • By Erik Norland

Erik Norland(CMEグループ・シニアエコノミスト & エグゼクティブディレクター)

1)   供給は拡大し続ける可能性は高い

2015年には金価格が下落したにもかかわらず、金鉱山の生産量は増え続け、1.4%増の9,170万オンスと記録的な水準に達した(図表1)。2015 年の平均価格1オンス1,158ドルから1オンス1,290ドル近辺に価格が回復すれば、鉱山会社には今年の生産量を拡大する動機がさらに増える見込みであり、リサーチ会社のCPMは、2016 Gold Yearbookにおいて生産量が3%増超の9,470万オンスに達する可能性があると指摘している。

図1:2015年の金鉱山の供給は8年連続で増加し、2016年で9年連続となる可能性あり

図2:1オンス1,290ドルでは、特にキャッシュコストの観点からみると依然として十分に採算がとれる

複数の要因は、金鉱山の供給増が続くとのCPMの見通しに信憑性を持たせている。1つ目は、金価格は依然として生産コストを大幅に上回っている。GFMSのアナリストは、2015年の金生産量1オンス当たりのキャッシュコストを 707ドルと試算している。[1]金生産量1オンス当たりのキャッシュコストが2016年も変わらない場合、金が1オンス当たり1,290ドルであれば平均的な金産出会社の単純マージンは極めて健全な 82.5%と、昨年を約20%上回ることになる。潤沢なプラスのキャッシュフローを踏まえると、減産の動機を持つ鉱山会社は極めて少数にとどまり、その多くは、金の生産量を増やそうとする意欲が更に高まる。鉱山会社は、2015年の大半を費やしコスト削減の手段を模索してきたことから、2016年の金生産のキャッシュコストは一段と下がる可能性は高い。

金鉱の運営にかかる全維持コストの観点から見ると、鉱山セクターはそれほど順調には見えない。 2015年は平均1,175ドルと、 2015年の平均金価格を17ドル上回っている。[2]金利、会社の管理費、採掘、設備投資の維持などの金鉱の運営にかかる全維持コストは、大幅に減少しており、 2016年には一段と下がる見通しである。金価格が1,290ドルであれば、減損を除くGFMSの試算した金鉱の運営にかかる全維持コストを約10%上回ることになる。現時点では、世界の金鉱の約60%は、この指標によると採算がとれていることになろう。この点に関しても、現在の価格では、生産を削減する動機はあまりなく、コスト削減による経済性向上の大きなプレッシャーが存在する。

2) 鉱山の供給は、価格を左右する主な要因であり、価格は二次供給と消費を左右する。

2016年に鉱山の供給が再び伸びれば、おそらく金価格にとって弱気材料になると予想される。金鉱山の生産量は年々、金の実勢価格の変動と負の相関関係にある(図3)。

二次供給は、あまり金価格に影響しないように見える。むしろ、その逆である。金価格が上昇すれば、既に採掘され精錬された金の保有者が金をリサイクルする動機が生じる。さらに、金価格が2011 年のピーク時から下落したという事実を背景に、宝飾品の買い手と歯医者の需要増が促されたが、一方で産業および電子機器の用途への影響は比較的少なくなりそうだ。民間投資は、実質的にトレンドを追随する。金価格の最近の回復を背景に、金関連ファンドと上場投資信託(ETF)に多少の資金の戻りが生じるかもしれないが、金の上昇が持続しなければ一時的なものにとどまる可能性がある。 


図3:鉱山の生産は金価格と逆方向に動き、その他全ては価格に反応する

対GDP比の債務は、一般的には公的債務のみを指すことが多い。このことは、誤解を生じさせる可能性がある。ほとんどの国において、公的債務は債務総額のほんの一部分でしかない。とはいえ、過剰な公的債務が金融危機の引き金になるケースもある。ギリシャはその典型例だ(図5)。しかし、1990年代前半の日本や2007年の米国で見られたように、金融危機の多くは民間部門から生じる。2009年のスペインおよびアイルランドのケースは、たとえ公的債務が低い水準であっても、民間部門で危機が生じ得ることを示している(図6, 7)。スペインとアイルランドが危機に瀕したとき、対GDP比の債務総額は約240%から250%であったが、対GDP比の公的債務は30%にも満たなかった。

金融危機は、債務の水準がずっと低いときにも起こり得る。1980年代後半に米国で発生した貯蓄貸付組合(S&L)の連鎖破綻は、1981年から1987年にかけての債務の拡大、つまりレバレッジの上昇後に発生したものであり(図2)、実質金利の高まりと名目GDPの急減速を伴うものであった。

1997年~98年のアジア経済危機は、対GDP比で60%から150%の債務を持つ国々で起こった。これらの国は、外貨建て(主に米ドル)の債務を抱えていたため、自国通貨の急落によって返済能力が低下し、実質的な債務が跳ね上がったことが危機の一端となった。このような危機は、2000年代初めのアルゼンチンでも発生した(図8)。

図4:価格安により調整圧力にさらされ、2015年に二次供給は縮小

図5:2015年に新興市場の宝飾品販売は増加したが、価格が高止まりすれば長続きしないか

3) FRBの利上げ期待の縮小は金の支援材料であったが、好況は終焉する可能性がある

FRBが2006年以来の利上げに踏み切った12月の頃、連邦公開市場委員会(FOMC)の「ドットプロット(金利予想の分布図)」は、FRBのメンバーによる2016年の利上げ回数予想の中央値が4回であったことを示唆していた。マーケットは、この予想に全く納得がいなかった。だが、利上げ時に、FF金利先物は2016年と2017年で合計4回の利上げ、概ね6ヶ月毎の利上げをみ織り込んでいた。

とはいえ、中国の成長が減速し、コモディティ価格の大幅下落がエネルギーおよび鉱山セクターの利益に打撃を与えるだけではなくデフォルトの大幅増を招き、銀行の収益性と経済全体の健全性がリスクにさらされるとの見方が浮上して、1月と2月にコモディティ価格と株式市場は低迷した。このため、FF金利先物では、2016年と2017年の利上げ期待の織り込み度合いがほぼすべて消滅した。現在、FF金利先物には、2016年にあと1回の追加利上げの確率が約60%織り込まれており、2017年下半期までの利上げについては十分に織り込まれていない(図 6)。その後、株価とコモディティ相場が反発したことから、この織り込み度合いはほとんど変化しなかった。

図6:利上げ期待は消滅し、ほとんど消滅した状態が続いた

金価格は、利上げ期待の消滅に活気づいた。金は利息が生じない価値の貯蔵手段であるため、競合する価値の貯蔵手段である銀行口座はおそらく利息が大してつかない見込みであるとのとのニュースは、金投資家に好感された。FRBが利上げに踏み切って以来、金とFF金利先物の動向の相関係数は-0.38(図7)と、利上げ前の2015年(図8)の相関係数の-0.30よりも強まった。  

図7:利上げ以降、金は以前よりもFF金利先物との負の相関関係が強まった

図8:利上げ前でさえも金は金利上昇が懸念材料で、利上げ期待の後退が好材料だった

ゴールドバグ(金に積極的に投資する投資家)とその他のそれほど熱心ではない投資家は、1,050ドルから1,290ドルへの金価格の回復を喜ぶのは当然ではあるものの、好況は長続きしない可能性がある。第一に、FF金利は、2016年から2017年にかけての金利動向予想に関して、3四半期に対する織り込み度合いが既に後退したことから、追加利上げの織り込みが後退する余地はあまりない。第二に、米国経済は依然としてかなり好調に見える。4月の雇用統計はコンセンサス予想を若干下回ったと批判的な報道がなされていたが、FF金利先物はほとんど動かなかった。

FF金利先物は、反応しない可能性がある。雇用統計は少々期待外れであったものの(雇用者数は前月の下方修正後で予想を5万9,000人下回り、1億4,300万人の労働者を雇用する国では、多い水準ではなかった)、時間当たり平均賃金は前年同月比2.5%増と堅調な伸びをみせた。これに雇用者数の前年同月比1.9%の伸びと時間当たり平均賃金を結びつけると、 労働所得は4.4%増となる(図9)。このため、個人消費が持続する余地は十分にあり、FRBは今年後半、早ければ7月に利上げを行うとの見方が強まることが予想され、マーケットの動向と 6月に控える英国の「Brexit(EU離脱)」を巡る国民投票の結果は、金融市場に混乱を引き起こさないと想定している。 

FRBは、再び利上げを行いたいと考えており、2%(FRBが重視する指標、コアPCEデフレータ)に向かって上昇しているコアインフレ率はその水準に接近しており、いずれはマイナスの実質金利の試みに終止符が打たれるだろう(図10)。市場環境が許されれば、FRBは、利上げのシグナルを発する可能性があり、FF金利先物が下落し、金利見通しは上昇すると思われる。そうなれば、これは金にとって好ましくないことが判明し、初期段階にある上昇局面が息絶えてしまいかねない。

図9:労働所得は前年同月比4.4%増と、成長を持続するにはおそらく十分に高い水準

図10:各国中央銀行は夢を持っており、FRBの夢はプラスの実質金利

ただ、FRBは短期的に、将来の利上げ実施のシグナルを発するのに苦戦を強いられそうだ。株式市場とコモディティ市場は共に、最近の安値を再び試してしまうかもしれない。そうなれば、FRBの利上げ期待が一段と後退する公算は大きく、こうした状況は金にとって実際に好材料になりえる。  

4) 中央銀行の金購入は、金上昇の災いの元かもしれない

2008年以来、中央銀行は金を購入してきた。2015年の購入量は約1,000万オンスで、2016年はさらに増える可能性がある。当然、中央銀行による購入は、金価格を支える傾向にあることから、金保有者にとっては歓迎すべき材料ではある。そうはいうものの、長期投資家は大喜びすべきではない。中央銀行は、タイミングという点では無残な実績を残しており、高値で買い、安値で売る傾向にある。 中央銀行は、実質的に金価格がピークに達した1980年に買い越し、底値を付けた1990年代と2000年初頭に売り越しに転じた(図11)。 金価格が底値圏から数百パーセント上昇した後のみ、買いを再開した。足元の価格は、2011年のピーク期とインフレ調整後の1980年高値に比べると安値に見えるかもしれないが、足元の水準は過去の水準から 判断するとかなり高い。

中央銀行による購入によって金価格が押し上げられている限り、金鉱会社はそうでない場合よりも多くの利益を得られ、鉱山の供給が増えて金保有者には将来的に損害がもたらされる一方である。要するに、中央銀行が金を購入しているときは、投資家はその他の投資先を物色した方がいいかもしれない。

図11:中央銀行:世界最悪のマーケットタイミング

5) 金価格が下落すれば、オプションのボラティリティは上昇する可能性があろう。

金のボラティリティは現在、かなり低く、 30日物オプションについてあhインプライド・ボラティリティ(IV)が16%近辺で推移している。これは、約10%の過去最低水準を大幅に上回っているが、30~35%近辺の過去最高水準には程遠い(図12)。金は、大部分の資産のごとく、上昇局面よりも下落局面で変動が大きくなる傾向にある。金のインプライド・ボラティリティ(IV)が約10%の昨年の低水準を再び付ければ、金のオプションに目を向ける価値があるだろう。当面、6月に控える英国がEU圏に残留するか否か判断する 「Brexit(EU離脱)」を巡る国民投票により価格が押し上げられそうだ。

図12:金の30日物オプションのボラティリティ

6) マイナスの実質金利は、金サイドにとっては最高かもしれない。

金は一般的にドル建てであるため、金価格に最も影響をもたらす中央銀行は、FRBとなる。だが、それだけではない。FRBは、金融引き締めを緩慢なペースで進めているものの、世界の中央銀行の大半は緩和スタンスをとっており、そのなかのいくつかはマイナス金利を導入している。 

欧州中央銀行(ECB)と日本銀行のマイナス金利導入は、為替市場においてかなり直観に反した結果を生み出している。日銀によるマイナス金利の導入以来、円はドルに対して上昇している。ECBが中銀預金金利をマイナスに引き下げてから、ユーロでも同じことが起こった。マイナスの預金金利は、銀行システムにとって増税効果となり、実際に金融引き締め効果が生じる可能性があり、ユーロと円などのマイナス金利導入国の通貨の価値がドルなどのプラス金利国の通貨に対して上昇している。ドルに対して軟化しているだけではなく、不確実性が生じて投資家が金などの安全資産を追求する可能性があるため、これは、金にとっては支援材料になりそうだ。 

マイナスの預金金利の影響とは対照的に、特定の通貨の流通量が拡大し、その通貨の価値が他の通貨に対して安くなれば、マイナス金利を導入した中央銀行の貸出金利は逆方向に押しやられかねない。これは、想像するに、中央銀行がマイナス金利の導入により起こると意図していたのは自国通貨安で、通貨高ではなかった。しかし、マイナス金利の試みが終わり、マイナス金利導入国の通貨がプラス金利国の通貨に対して上昇すれば、これは金価格を支える可能性があろう。 

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著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミストです。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信しています。

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