金と銀:FRBの利上げと鉱山の生産量

  • 12 Sep 2016
  • By Erik Norland

元素周期表の隣同士である金と銀は、世界のコモディティ市場においても密接な関係にある。両方の金属は、投資、宝飾品、歯科、産業の用途に用いられている。また、2015年初頭から、日足ベースで+0.76と強い相関関係を示している。

調査において、両方の金属に一貫して影響を与えている要因は、(1)金利予想と(2)鉱山供給の2つに過ぎないことを突き止めている。とはいえ、この要因には重要な相違が存在する。金利予想の変化は、金属市場に対して、外生的かつ短期的に日々影響を及ぼしている。しかし、鉱山供給は、外生的かつ長期的に、年ごとに影響を受ける。金と銀の価格は、鉱山供給に影響を及ぼしているが、その影響は遅れて現れることが多く、その後鉱山供給は両方の金属価格にインパクトをもたらす。連星が共通重心の周りを公転するように、金と銀は、互いに強く影響し合っている。

金利予想:需要に対する短期の外生的要因

貴金属の価格が米連邦準備理事会(FRB)の金融政策に与える影響は、ほとんどないか、皆無ではあるが、フェデラルファンド(FF)金利の市場予想の変化は、プラチナやパラディウムを含め4種の金属のうち2つに強いインパクトをもたらしている。FF金利の変動(FF金利先物から100差し引く)と貴金属価格の変動について日々の相関関係を比較してみると、金と銀について一貫して強い負の相関関係がみられることがわかる。2015年12月にFRBが利上げに踏み切って以降、そうした相関関係はさらに強まっている。  

金は、銀よりも金利政策の変化の影響を受けやすい。これはおそらく、金は、投資と宝飾品に広く用いられている完全な貴金属であり、また投資対象として見ることができるという、2つの理由が存在するからである。 また、銀も投資と宝飾品向けの用途はあるものの、産業用およびその他の用途に広く用いられている。 対照的に、プラチナやパラジウムなどのプラチナ・グループは、FRBの利上げ予想の変化にほとんど反応を示さない(図1)。 プラチナとパラジウムは、レアで高価な産業用金属とみなされている。

図1:フェデラルファンド金利の利上げ予想は、銀にとって悪材料であり、金の場合は特にそうである

金と銀の価格が利上げにネガティブに反応する理由は、単純である。金属は、保有期間において金利が生じない。そのため、金利が上昇すれば、投資家にとってドルなどの不換通貨が金や銀よりも魅力的に映ることになる。そして、金利が低下すれば、紙幣に対する金属の相対的な魅力が高まることになる。

銀と金、特に金は、2015年12月の利上げ以降、フェデラルファンド(FF)金利の追加利上げ期待の後退による恩恵を受けている(図2)。とはいえ、利上げ予想は回復に転じた。ジャネット・イエレンFRB議長は8月に、2016年9月20~21日の連邦公開市場委員会(FOMC)の会合における利上げの可能性に含みを残したことから、FF金利先物市場は反応し、利上げを見据えたポジションが積み上がった。

図2:FF金利先物の金利予想

利上げ期待の高まりを受けて、足元の金と銀の上昇は一服するとみられる。金は7月初頭に、銀は8月初頭にピークに達したが、その後の下落は小幅にとどまっている。また、下落幅を抑制している可能性があり、極めて見過ごされている一つの要因は、供給である。 「GFMS Gold Survey Q2」によると、前期にほぼ横ばいだった金鉱山の供給は、2016年第2四半期に前年同期比 2.2%減少した。金利予想は、日足の観点から見ると金に強い影響を与えているものの、鉱山供給は、長期的影響を与える傾向にあり、鉱山供給の伸びが食い止まっている事実は、少なくとも短期的には金と銀にとって好材料になる。

鉱山供給と金・銀のエコシステム

世界の金在庫合計は、約16万7,000メートルトンまで積み上がっている。今年は、約3,000メートルトンが採掘される予定で、在庫合計は1.6%拡大する。銀の在庫合計は160万メートルトンと、金のほぼ10倍に達している。約2万4,400メートルトンの銀が今年採掘される予定であり、金の約8倍に相当し、在庫合計は1.5%増加する。

金と銀の在庫の伸び率は力強く,価格には好ましくない影響を与えているようだ。図3は、既存の金在庫の伸び率が低下した期間における、主な金の強気相場の一部を示したものである。 金在庫の伸びは、 1920年代から1930年代初頭にかけて驚くほど低下し、1920年代の英国と1930年代初頭の米国を悩ませたデフレ環境の発生をもたらした。 1933年、ルーズベルト政権は、米国のマネーサプライを拡大する目的から、金に対するドルの価値をほぼ3分の1に切り下げた。 

ドルの切り下げにより、ドルベースでの金価格は上昇し、鉱山生産が活気づいた。第二次世界大戦後の金生産量は、1965年まで安定して増え続けた。その後、金生産量は急減に転じ、在庫合計は1960年代半ばに 2.5%増えたものの、1980年にはわずか1%しか増加しなかった。 1971年、米国は、金とドルとの固定相場制を廃止せざるを得なくなり、ドルを変動相場制に移行させた。金価格は、1970年に1オンス35ドルだったが、1980年に同800ドルへと急騰した。

1970年代の金の強気相場は、主として70年代の大半において、FRBがインフレ率を下回る水準に金利を維持し、それがインフレ率の急伸につながったために発生したというのが、コンセンサスの見方である(図4)。金融緩和政策が役割を果たしたことは、疑う余地はない。ただ、金在庫に対する鉱山供給の比率の急低下は、見過ごしてはならない要因である。

図3:金の供給の伸びの変動は、価格に深い影響をもたらしている

図4:実質FF金利も金価格に影響を及ぼした

さらに、高い実質金利を伴った1980年代の金融引き締め策は、金価格の暴落を引き起こしたと一般に想定されている。ここでも、プラスの実質金利により、FRBの不換通貨の金と比べた相対的な魅力は、1970年代のマイナスの実質金利期間よりも1980年代と1990年代に高まったに違いない。 しかし、金利が全てを物語っているわけではない。金鉱への投資ブームが奨励された1970年代における金価格の急騰局面を背景に、1980年代と1990年代を通して、既存の金供給量に対する鉱山生産量の比率はほぼ2倍近くに上昇した。銀鉱山は、同じく拡大を経験した。また、鉱山供給の増加は、1980年代と1990年代における金と銀の価格の暴落の一因であった。

世紀の変わり目に、金鉱山の供給は再び減少に転じ、既存の金在庫の年間増加ペースは、1998年の年間 2%超から2009年にわずか同 1.5%へと低下した。こうした鉱山供給の減少は金価格の大規模な強気相場と一致しており、1990年代におけるプラスの実質金利から2009年のマイナスの実質金利への転換にも一致している。

2009年以来、金鉱山の供給は拡大に転じ、今年まで少なくとも増加基調にある。供給の伸びは、FF金利がインフレ率を持続的に下回る中、2011年以来、金価格の下落圧力の要因であったかもしれない。むろん、FRBによる2014年の量的緩和の終了と2015年の利上げは、金融引き締めに相当し、これは疑いようのない事実であると主張することもできよう。そうとはいえ、金価格が2011年高値を大幅に下回った水準を維持している唯一の要因は、実質金利の変化であるとは思えない。また、 2008年から2016年にかけての金鉱山の年間供給量の37%の拡大ならびに、銀生産量の急増(図5)を背景に、おそらく両方の金属価格は、下落圧力にさらされている。

分析によると、金・銀価格は、鉱山供給が金と銀自体に、そして互いにマイナスの影響をもたらしている。つまり、金鉱山の供給増は、金と銀双方の価格にマイナスの影響を及ぼしている。同様に、銀鉱山の供給増は、金や銀の価格にマイナスの影響をもたらしている(図6)。

図5:銀の鉱山供給量は1995年から倍増

図6:金と銀の鉱山供給は互いの価格にマイナスの影響をもたらしている

影響をもたらす理由は、極めて単純である。金と銀は、部分的に代替可能である。金と銀のエコシステムでは、価格上昇はリサイクル(二次供給)の増加につながり、市場ではスクラップ が回復する。二次供給は、価格にマイナスの影響を与えない。つまり、金と銀の二次供給の量は既に採掘済みというのが周知の事実である。 したがって、価格上昇は、市場への二次供給の再開の動機付けとなり、価格には影響が及ばない。しかし、金と銀の産業向けや歯科向けの用途は共に、価格の変化にネガティブに反応する。

この2つの金属で大きな違いがある用途は、宝飾品向けである。金価格が急騰すると、消費者は金の宝飾品の購入を大幅に減らす(図7)。銀については、同じことが当てはまらない。銀価格の上昇率が金を上回ったとしても、銀の価格は金価格の75分の1に過ぎないため、消費者はまだ、銀を購入する余裕がある。 そのため、金鉱山の供給が増えれば、金や銀の価格が下落する可能性が高くなる。金は、金・銀のエコシステムの支配的要因になっている。

図7:金と銀のエコシステムのミクロ経済

見通し

金利:米国経済は、適度に良好な状態にある。生産性の伸びが低く企業利益が伸び悩む中、労働市場は、極めて好調である。過去1年間において、雇用者数は1.9%増加し、時間当たり平均賃金は2.6%増加した。結局のところ、これは、総労働所得の4.5%の伸びに相当する。GDP成長率は、(極めて高い水準からの)企業利益の減少、在庫減(先行きについて良い兆候)、米国の貿易収支の悪化を主因に、停滞している。インフレ率は、エネルギー価格下落の結果として抑制されているが、この状態は永遠に続くわけではなく、コア・インフレ率は上昇基調にある。そのため、FRBは、段階的な金利引き上げで調整するとみられ、金と銀の価格高は、利上げ観測の後退によるものであるとの見方をしている。

鉱山供給:おそらく2014年と2015年における価格下落局面によって、やや限界に達した生産者が鉱山操業を縮小したことから、金と銀の一次供給は停滞している、または若干減少している。現在、金と銀の価格は共に、生産コストを大幅に上回っている。銀価格は、1オンス18.50ドル近辺で推移しており、銀の生産者は、極めて高い利益率を示している(図 8)。金の生産者は、オールイン・コストベースではほぼ採算が取れていないとはいえ、少なくともその生産コストを上回る水準まで回復した。そのため、今年終盤または2017年に銀鉱山の生産量が力強く伸びると考えているのに対し、金鉱山の生産量は、少なくとも安定し、おそらく回復に転じると予想している。  

図8:銀は、大半の鉱山操業でかなり高い収益性を維持している

図9:金鉱山は潤沢なキャッシュフローを生み出しているが、ほとんどオールイン・コストに達していない

結論:我々の観点から見ると、金利見通しも鉱山生産量のトレンドのいずれも、2016年終盤や2017年に金と銀の支援材料にならない可能性は高い。むろん、特にFRBが次回の利上げをさらに先送りする決定を下せば、我々の見方が誤っていたと立証されかねない。

本資料に掲載の情報は、あくまで情報提供を目的としたものです。助言を意図したものではなく、また助言と解釈しないでください。本資料に記載されて いる見解は、筆者個人のものです。必ずしも CME グループならびにその関連機関の見解ではありません。本資料およびその情報を投資助言も しくは実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

免責事項

先物取引やスワップ取引は、あらゆる投資家に適しているわけではありません。損失のリスクがあります。先物やスワップはレバレッジ投資であり、取引に求められる資金は総代金のごく一部にすぎません。そのため、先物やスワップの建玉に差し入れた当初証拠金を超える損失を被る可能性があります。したがって、生活に支障をきたすことのない、損失を許容できる資金で運用すべきです。また、一度の取引に全額を投じるようなことは避けてください。すべての取引が利益になるとは期待できません。

本資料に掲載された情報およびすべての資料を、金融商品の売買を提案・勧誘するためのもの、金融に関する助言をするためのもの、取引プラットフォームを構築するためのもの、預託を容易に受けるためのもの、またはあらゆる裁判管轄であらゆる種類の金融商品・金融サービスを提供するためのものと受け取らないようにしてください。本資料に掲載されている情報は、あくまで情報提供を目的としたものです。助言を意図したものではなく、また助言と解釈しないでください。掲載された情報は、特定個人の目的、資産状況または要求を考慮したものではありません。本資料に従って行動する、またはそれに全幅の信頼を置く前に、専門家の適切な助言を受けるようにしてください。

本資料に掲載された情報は「当時」のものです。明示のあるなしにかかわらず、いかなる保証もありません。CME Groupは、いかなる誤謬または脱漏があったとしても、一切の責任を負わないものとします。本資料には、CME Groupもしくはその役員、従業員、代理人が考案、認証、検証したものではない情報、または情報へのリンクが含まれている場合があります。CME Groupでは、そのような情報について一切の責任を負わず、またその正確性や完全性について保証するものではありません。CME Groupは、その情報またはリンク先の提供しているものが第三者の権利を侵害していないと保証しているわけではありません。本資料に外部サイトへのリンクが掲載されていた場合、CME Groupは、いかなる第三者も、あるいはそれらが提供するサービスおよび商品を推薦、推奨、承認、保証、紹介しているわけではありません。

CME Groupと「芝商所」は、CME Group, Inc.の商標です。地球儀ロゴ、E-mini、E-micro、Globex、CME、およびChicago Mercantile Exchangeは、Chicago Mercantile Exchange Inc.(CME)の商標です。CBOTおよびChicago Board of Tradeは、Board of Trade of the City of Chicago, Inc.(CBOT)の商標です。ClearportおよびNYMEXは、New York Mercantile Exchange, Inc.(NYMEX)の商標です。本資料は、その所有者から書面による承諾を得ない限り、改変、複製、検索システムへの保存、配信、複写、配布等による使用が禁止されています。

Dow Jonesは、Dow Jones Company, Inc.の商標です。その他すべての商標が、各所有者の資産となります。

本資料にある規則・要綱等に関するすべての記述は、CME、CBOTおよびNYMEXの公式規則に準拠するものであり、それらの規則が優先されます。 取引要綱に関する事項はすべて、現行規則を参照するようにしてください。

CME、CBOTおよびNYMEXは、シンガポールでは認定市場運営者として、また香港特別行政区(SAR)では自動取引サービスプロバイダーとして、それぞれ登録されています。ここに掲載した情報は、日本の金融商品取引法(法令番号:昭和二十三年法律二十五号およびその改正)に規定された外国金融商品市場に、もしくは外国金融商品市場での取引に向けられた清算サービスに、直接アクセスするためのものではないという認識で提供しています。CME Europe Limitedは、香港、シンガポール、日本を含むアジアのあらゆる裁判管轄で、あらゆる種類の金融サービスを提供するための登録または認可を受けていませんし、また提供してもいません。CME Groupには、中華人民共和国もしくは台湾で、あらゆる種類の金融サービスを提供するための登録または認可を受けている関連機関はありませんし、また提供してもいません。本資料は、韓国では金融投資サービスおよび資本市場法第9条5項並びに関連規則で、またオーストラリアでは2001年会社法(連邦法)並びに関連規則で、それぞれ定義されている「プロ投資家」だけに配布されるものであり、したがってその頒布には制限があります。

Copyright © 2016 CME Group and芝商所. All rights reserved.

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミストです。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信しています。

Erik Norland(CMEグループ エグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト)によるレポートの一覧は、こちらでご覧いただけます。