金は米利上げにも堅調の可能性あり

  • 1 Feb 2018
  • By Erik Norland
  • Topics: Metals

金(ゴールド)価格、そして比較的影響は弱いものの銀・白金(プラチナ)価格の短期的動向を決定するうえで、何よりも大きな役割を果たしている要因が米金利予測の変化である。過去2年間のほとんどで、金価格とフェデラルファンド金利先物(訳注:100-価格で米国の政策金利であるFF金利を表現)の日次変動には相関があった。平均するとマイナス0.6近辺だ(図1)。

図1 FF金利と貴金属との相関

ただし、最近数週間は、その相関が弱まってきている。金価格は12月12日安値の1トロイオンス約1240ドルから100ドル近く上昇したにもかかわらず、FF金利先物は「金が12月安値を付けたときよりも、米連邦準備理事会(FRB)はさらに33ベーシスポイント(bps)高く利上げをしそうだ」と評価しているのだ(図2)。

図2 FF金利と貴金属との相関

金が最近強くなった大きな理由として、他通貨に対し米ドルが弱くなったことが挙げられるだろう。ドル安はいくらかの驚きをもたらした。もっとも「FRBは2018年に2~3回利上げをして、さらに2019年も引き締める」という予測について市場がより慎重になれば、米ドルはさらに大幅安となるかもしれない。

FRBが2018年に3回、さらに2019年に2回の利上げをするという懸念(金市場にとっては)が薄らいだ場合を想定している人もいるはずだ。FRBの利上げが実際には市場の予想を下回ったのを材料に、黄金がさらに輝きを強めていくと考え、仕掛けているかもしれない。とはいえ、インフレと賃上げの圧力に懸念を示す声があるにもかかわらず、不思議にもこれら2つの要素は最近の経済データに現れていない。2017年後半のコアインフレ率は年平均換算で2%に達したものの、憂慮するほどではない。賃金の伸びは近年やや上向いているものの、2.5%未満のままだ。70年代インフレというホラー映画のあらすじとは根本的に違う。

特に注目されるのは、金オプション市場がボラティリティに総じて無関心であることだ。アット・ザ・マネー(ATM)の金オプションは歴史的安値で取引されている(図3)。しかも、のアウト・オブ・ザ・マネー(OTM)オプションが相場の下落に恐れおののいているのと異なり、金のOTMオプションは相場の上げにも下げにも、あくびを噛み殺している程度の反応しかない(図4)。

図3 ATMオプションのボラティリティは過去最低に近い

図4 金インプライド・ボラティリティの「スマイル」は特にOTMオプションで緩い

株式相場もしくはリスク均等配分の崩壊が金価格上昇の追い風に

米国株のボラティリティ指数(VIX)が記録的低水準で取引されており、米国株相場は上昇している。したがって、FF金利先物はさらなる利上げを価格に反映しやすいといえる。しかし、やがて米国株に修正があれば、FRBの利上げ予測が急速に減退し、金相場を舞い上がらせる可能性がある。そして、米国株は対GDP比で記録的高値に近づいているのだ(図5)。

図5 米国株の評価は得てして米国債利回り水準と反比例する

米国債利回りが魅力的水準にないのを考慮すれば、米国株相場に修正がある保証は決してないものの、それも裏を返せば、よりショックを受けやすくなっているといえるだろう。

また、リスク均等配分(パリティ)戦略の増加も注目される。株式プットを絶え間なく買い持ちする費用の高さを考えると、レバレッジをかけた債券の買いポジションで株式買いのリスクをヘッジする方法が魅力的に見える人もいるだろう。こうしたレバレッジをかけた固定金利商品に株式を加えたリスク均等配分戦略は、過去数十年以上、うまく機能してきた。しかし、インフレの衝撃には弱い。債券が売られれば、株式市場が道連れになり得る。したがって、インフレ率が今年後半に上昇し始めれば、金がポートフォリオには不可欠であると証明できるかもしれない。もちろん、多くのリスク均等配分戦略が構成資産に金を含めている。もし、インフレ率が突発的に上昇することがあれば、極めて意義深い分散手段であると証明できるだろう。

今回最後に注目したいのは、前にも解説したVIXと利回り曲線(イールドカーブ)のサイクル利回り曲線と信用のサイクル、そして利回り曲線と失業率のサイクルである。FRBには、利回り曲線が平坦化し、ボラティリティが突発的に上昇(スパイク)し、信用スプレッドが拡大し、景気後退に陥るまで、利上げをする傾向があった。したがって、私たちはFRBと利回り曲線に絶えず注目している。ジェローム・パウエルFRB理事とその仲間たちが利上げを押し通せば、短期的には金相場に逆風となるかもしれない。だが、2001年や2008年がそうであったように、過剰な金融引き締めが景気低迷を引き起こす原因となり、FRBが再度緩和策に方針を転換させられれば、金の保有者が大きな恩恵を受ける仲間に入る可能性は高いだろう。

FRBはドットプロット(訳注:図表に点線を入れて示す金利見通し)を公表して、2018年と2019年に各3回の利上げを支持している。市場は今、2018年のドットプロットにおおよそ同意しているものの、2019年は利上げが1回だけと評価している。今年と来年で6回の利上げに突き進んだ場合、利回り曲線は平坦化するはずだ。それは将来的に市場全体でボラティリティが大量増加するリスクがあり、金の大相場となる可能性を示唆しているといえそうだ。

ただし、このシナリオには2つのリスクがある。ひとつは労働市場がひっ迫しているにもかかわらず、インフレが姿を現さなかった場合だ。もうひとつはFRBが利回り曲線の逆転(または過度の平坦化)について慎重になった場合である。後者に関して、FRBは2017年12月会合で、はっきり公然と利回り曲線が逆転する危険性について論じている。曲線が過度に平坦化するまで突き進まなかった場合、金相場にとっては短期的な弱材料が払拭されるものの、将来的な強材料を奪われる可能性がある(政策を突然転換させる必要性が取り除かれることで米国経済が成長を維持するかもしれない)。

しかし、インフレ率が上昇すれば、FRBがそれをやってのけるのは難しいだろう。1バレル70ドル台に突き進む原油価格、工業用金属価格の反発、労働市場のひっ迫で、インフレの衝撃らしきものが間もなく現れるかもしれない。インフレ率が2.5%を超える動きとなれば、FRBは2017年同様の(そして示唆されている)ペースで2018年に金利を引き上げていきそうだ。たとえインフレ率がそうならなくても、FRBはとにかく引き締め策を維持するだろう。

それこそFRBが1999~2000年にしたことである。コアインフレ率が2%未満であるにもかかわらず、FRBは金利を6.5%にまで引き上げた。そのおかげで利回り曲線が逆転し、IT株崩壊による景気後退とその後のボラティリティに油を注いだのだ。2006年も同様である。物価連動米国債(TIPS)のインフレ予測と実現コアPCEがどちらも2~2.5%であったにもかかわらず、FRBは引き締め策を維持し、利回り曲線を丸一年、平坦化させた。そのおかげで経済への信用供給は息の根を止められ、深刻な景気後退へとつながったのだ。2006年のFRBは資産価格ばかり気にしており、消費者物価をさほど気にしていなかったと主張する向きもあるだろう。資産価格が再度上昇しているなか、消費者物価には緩やかな上昇圧力がかかっているだけにもかかわらず、FRBはこうした過去の引き締め策による出来事を繰り返そうという誘惑にかられてしまうのだろうか。 

いずれせよ、もうすぐ明らかになる。総債務残高が対GDP比250%という歴史的高水準にあるなか、米国経済はかつてなく金利の小さな変動に敏感になっているかもしれない。少なくとも金融政策の変化とその金融的・経済的影響に通常1~2年の遅れがあることを考慮すると、FRBの一見緩やかな動きは、ほとんどの人が想像しているよりも経済成長と金融市場に影響を与えるかもしれないのだ。

結論

  • 金相場はFF金利の予測指標が利上げを示唆しているにもかかわらず上昇している。
  • これは利上げ予測が減退した場合、金相場にとって大きな強材料となり得る。
  • 米国株相場は対GDP比で史上最高の水準に戻っている。
  • FRBが過度の利上げで信用スプレッドの急拡大とボラティリティの急増を生んだ場合、金にとって大きな追い風となり得る。
  • 金のATM・OTMオプションはどちらも比較的低いボラティリティで値付けされている。

 

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著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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