金市場の上昇は維持可能か?

  • 17 Feb 2016
  • By Erik Norland

Erik Norland(CME Groupシニアエコノミスト兼エグゼクティブディレクター)

昨年12月中旬の安値から今年2月中旬の高値まで、金価格は20%近くの上昇率を記録した。その後、上値を切り下げたものの、前述の上昇期間中には、2月11日に59ドル高で、過去12か月における高値を更新する場面も見せた。そしてこの金市場の上昇は、その背景とその継続性に関する考察を、強く促すものともなっている。

実際、昨年12月17日に金相場が底値を付けたのは、偶然ではない。その前の日、米国中銀のFRB(連邦準備制度理事会)は、2006年以来となる、政策金利の引き上げに踏み切っている。投資家にとって、金利収入をもたらさないものの、金は富を保蔵するための資産であり、その意味で、金利上昇は金市場にとって売り材料なのである。

 

政策金利引き上げに際してFOMC(連邦公開市場委員会)は、その後12か月において、4度の追加的な利上げを考慮していることを示唆した。しかしながら、そんな短期間にそれほどの頻度で追加利上げが実行される可能性に対して、市場の見方は非常に懐疑的だった。12月17日時点のFF(フェッド・ファンド=短期金利)先物は、2016年に2度、2017年に2度の追加利上げを示唆するに過ぎなかったのである。さらに、原油価格の大幅な下落、軟調な株式市場、そして与信市場の混乱などを背景に、市場の利上げ期待はそれ以来、大きく低下することにもなった。今年2月11日時点のFF先物は、追加利上げそのもの対する市場の懐疑的な見方を反映する結果となっている。市場は足元で、実施されるとすれば2018年というスタンスまで、利上げ期待を低下させているのである(図 1)。さらに、欧州中銀(ECB)、スウェーデン中銀、スイス中銀(SNB)、そして日本銀行などが金融政策にマイナス金利を導入するなか、FRBのイエレン議長は、同様の政策導入について検討する方針を示唆している。 

図 1: 追加利上げ期待の低下と金融市場の調整余地 (2016年2月12日)

2015年1月1日から同年12月16日まで、金価格とFF先物(100-金利)の日中連動性はマイナス0.30だった(図 2)。そして、12月16日の政策金利引き上げを経て、同数値はマイナス0.57へと連動性を高めている(図 3)。FRBによる追加利上げに対する市場の期待が高まると金価格は下落する傾向にあり、反対に、期待が低下すると金価格は上昇する傾向にある。現状、銀行の収益に過剰な悪影響を及ぼすことから、FRBがFF金利にマイナス金利を導入するとは考えにくいものの、FRBがマイナス金利を検討しているという事実は、それだけで金価格の上昇要因となる。 

 

図 2: 2015年1月1日~同年12月16日

図3: 2015年12月17日~2016年2月12日

従って、ここまでの金市場の上昇は、その大部分において、米国での追加利上げに対する市場の期待度が低下していること、さらに、現実性は非常に低いとしても、FRBがマイナス金利の導入を考慮していることに依存していると言える。FRBの追加利上げのスピードが非常に緩慢なものになるとすれば、それは金価格にとっての上昇要因である。ただ、問題は、これに関する現状の市場期待が既に、低下の限界に達している可能性があることである。これは、金価格を更に押し上げるほどに、追加利上げに対する市場の期待値は残されていないということである。非常に考えにくいシナリオではあるが、FRBが金融政策の正常化方針を撤回し、12月の利上げを修正するという事態にならない限り、金市場は主要な上昇要因を失うことになる。 

 

これまでにはなかったが、例えば米国の労働市場が急速で継続的な悪化に転じない限り、FRBは夢にも、直近の政策金利引き上げを取り消そうとは思わないだろう。足元の米国労働市場は、雇用が年間2%のペースで拡大すると共に、時間給は前年同月ベースで2.5%増となっている。平均労働時間は若干失速したものの、今年1月時点での総労働収入は前年同月比で4.1%増に達している(図 4)。更に、インフレ率が低位で推移する環境を背景に、実質労働収入は3%超となる。そして、こうした環境は、個人消費や継続的な経済成長を支援する要因となる。

図 4:

また、価格が高値で推移していること自体が、少なくとも金の長期保有を考えている投資家にとって、市場の悪材料となる。高値推移の金市場は、金の産出量を増加させるからである。金価格は前述の様に、市場の政策金利の追加利上げ期待に関する短期的な変化に対して過敏に反応することに加えて、長期的な産出量の変化に対しても過敏に反応する性格を持っている(図 5)。金の産出における総原価は2014年、トロイオンス当たり1000ドルを下回り、キャッシュ・フロー(現金流通)コストは700ドルを下回っていた(図 6)。

 

図 5: 通常、生産増は金価格の低下させる

図 6: 金価格が $1,250/オンス に到達しようとする中、金鉱運営は収益性の高いビジネスであると考えられる

そして、2014年末以来、以下に掲げた3つの要因を背景に、総維持コストと現金コストの両面から、金の産出コストは大きく低下したと考えられている:

  1. エネルギー価格の低下: 金の産出と精製のプロセスは、非常にエネルギーを要する作業となっている。従って、原油や天然ガス、さらに石炭などの価格低下は、事業コストの低下につながる(図 7)。
  2. 作業効率の改善: 2002年から2014年にかけて、金産出会社の主眼は増産だった。一方で、現在の市場環境の下で生産会社は、コストを削減することによって、同じ生産量でこれまで以上の価値を得ることを主眼としている。
  3. 米ドル高: 金の産出に従事する大多数の労働者に対する支払は、米ドル以外の通貨となっている(図 8)。同時に、ロシア・ルーブル、南アフリカ・ランド、カナダ・ドル、豪ドルなどの通貨は為替市場で、米ドルに対して軟調に推移している。米ドルの視点からは、労働コストが低下しているのである。実際、およそ半分が現地通貨建てとなっていることから、金の産出コストは低下することになる。更に、その他の通貨と同様に、中国が人民元の対ドル水準を引き下げるとすれば、産出コストの低下はより説得力を増すことになる。

 

図 7: 金 vs 原油

図 8: 米ドル建で支払いを受けている金鉱労働者は非常に少ない

まとめると、金利市場におけるFRBの追加利上げ見通しが最低限まで低下していることから、短期的には、金市場が更に上昇する可能性は限定的であると思える。また、金市場が高値圏で推移することで、産出会社が減産傾向にシフトすることは考えにくく、金市場の長期的な上昇余地も限定的となる。一方で、中国景気の失速懸念や商品価格の低迷を背景とした金融市場の混乱など、これまで金市場を上昇させてきた要因が、金市場での買い選好を継続的に刺激していく可能性も否定できない。ただ、悲観的な見方かもしれないが、金融市場では歴史的に、金はインフレヘッジのツールとして利用されて来た経緯がある。そしてインフレについては世界的に、その上昇率が余りにも低い状況が続いていること、更には一段の低下を見せていることが主要懸念として台頭している。こうした状況に対してここまで、FRBを始めとして、英国中銀、日銀、ECB、SNB,そしてスウェーデン中銀などは、数次に及ぶQE(量的緩和)と数年にわたる超低金利政策、場合によってはマイナス金利まで導入して対応してきた。その一方で、こうした政策の効果は限定的なものに留まっている。こうした中、非現実的なシナリオではあるが、FRBがマイナス金利の導入に踏み切るという可能性に市場の見方がシフトした場合には、金市場に次の上昇相場が訪れることとなる。

 

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