金オプション:底を脱する

  • 27 Apr 2017
  • By Erik Norland
  • Topics: Metals

11月8日の米大統領選挙から1カ月半の間に、次期大統領が公約に掲げる財政政策による景気刺激策を実現すれば、金利上昇を招くという見方が生じたことを受けて、金価格は12%下落した。ただ、その後のトランプ大統領の公約は、様々な障害に衝突したことで、金価格は反発して、大統領選挙後の下げをほぼすべて取り戻した。一方、金オプションは、直近の安値水準から盛り返したが、インプライド・ボラティリティは14%未満と過去に比べて低位で推移している(図1)。このトピックに関するポッドキャストは、ここで閲覧可能。

先行きについては、金価格が上下に大きく変動する可能性があり、そうなれば動きが鈍かったオプション市場が再び目覚め、金オプションのインプライド・ボラティリティの水準が大幅に上昇するとみられる。多くの要因が金価格に影響を及ぼしているが、支配的な役割を果たしている要因は以下の2つである。

  1. 米国の金融政策の変化に関する見方
  2. 金の産出量の変化

図1:低迷する金の価格とインプライド・ボラティリティ

これらの2要因は、かなり様々な方法で影響を及ぼしている。1つ目は需要に基づき、金価格を日々動かしている。2つ目は、対前年比の伸びが金価格を左右する供給の影響である。両方の要因は、金価格の強いトレンドを形成する可能性があり、金オプションのインプライド・ボラティリティにも影響をもたらす。 

米金融政策と金価格

米国の金融政策は、やや直観に反した形で金価格に影響を及ぼしそうだ。米国の金宝飾品の消費量は、比較的微々たるも水準である。2016年の世界全体の金宝飾品の消費に占める米国の割合は、約3%に過ぎない。これは、世界の販売量のそれぞれ33%、25%を占める中国とインドの販売量と比べると、かなり見劣りする。欧州でも米国よりも金宝飾品が好まれており、2016年の販売量全体に占める割合は15%である。

金価格が米国の金融政策の影響をかなり強く受ける理由は、比較的単純である。金は、ドル建てで取引されるためだ。連邦準備制度理事会(FRB)が、利下げによりドルを軟化させる、または量的緩和を拡大する措置を講じれば、米国の法定通貨は下落し、金保有者は恩恵を受ける傾向にある。対照的に、量的緩和の縮小や利上げなどのドル保有の魅力を高めるFRBの行動は、金価格を押し下げる傾向にある。 

これは、金のスポット価格の日足の変動とフェデラルファンド(FF)金利先物が織り込む利上げ確率の日々の変動(100からFF金利先物価格を差し引く)との間の強い負の相関関係において散見される。FRBが金融引き締めペースを速めるとの観測が浮上すれば、金価格は下落する傾向があり、逆もまたしかりである。さらに、金は、銀、プラチナ、パラジウムなどの他の貴金属よりも、米国の金利観測の変化から大きなマイナスの影響を受けている(図2)。

米大統領選挙後、金にとってはマイナス材料である利上げ期待が高まった。しかし、2016年12月終盤以来、FRBの利上げ観測は、トランプ大統領が掲げる政策提案が暗礁に乗り上げているため和らいでる(図3)。本質的に、トランプ大統領はこれまで、自らの国内政策を議会で通過できていない。医療保険制度改革法の代替案を撤回した。税制改革は依然として検討中である。トランプ政権は、税制改革案をまもなく公表すると述べているものの、同案が議会を通過するかは不明である。同政権は、引き続きインフラ投資の増額を提唱しているが、この提案の詳細は明らかになっておらず、この提案内容が具体化した際に議会がどう反応するかは不透明である。

そのため、金は、トランプ大統領の政策の頓挫に対する究極のヘッジである。もし同政権がインフラ投資案を実現できなければ、金価格は押し上げられる可能性は高い。政権が実現に成功すれば、金価格は12月安値を再び試すか、または割り込む可能性があろう。トランプ政権は前途多難なスタートを切ったように見えるが、これまで公約を果たすのに数カ月、あるいは数年を要した政権は多い。 

図2:金は、FF金利先物の変動から最も大きな(マイナスの)影響を受ける貴金属である

図3:FF金利先物に織り込まれた利上げ期待は大統領選挙後に後退

金にとっての悪材料は当面、FRBが追加利上げを決定する見込みがあることだ。FRBのジャネット・イエレン議長と理事は、投資家に対して、2017年の利上げ回数について、3月の1回のほかに少なくとも1、2回の利上げを行うとの見方を示した。労働市場については、失業率はFRBによる追加利上げが正当化される水準の4.5%まで下がっており、依然としてひっ迫している。 

インフレ圧力がまだ頭をもたげていないことは、米国の金融政策のタカ派にとって問題であり、金保有者にとって好材料である。総合消費者物価指数(CPI)の上昇率は、前年比2.4%に達しているが、コアCPIは同2.0%となっている。原油価格は、2016年2月に底を打ち、6月までに1バレル50ドル近辺の足元の水準に戻った。このため、第2四半期と第3四半期のインフレ率が明らかになれば、総合CPIの前年同月比の上昇率は低くなる傾向になりそうだ。さらに、労働市場がひっ迫する中、賃金の上昇率は依然として穏やかであり、コアCPIに持続的な上昇圧力がかかっている兆候はまだあまり見られない。

労働市場とインフレ率という中期的な問題以外にも、FRBが米国経済に打撃を与えずに利上げペースを加速することはできないと考える重要かつ長期的な理由が一つある。米国の債務水準が依然として天文学的なレベルで推移していることである。2008年に発生した金融危機以降、債務は減少していない。つまり、もっと具体的に述べると、危機後に民間セクターが小幅にレバレッジ解消を行ったが、公共セクターにおける債務の大幅増加によってその効果は帳消しされて債務は増加している。米国の総債務は、対GDP比で250%を上回ったままである(図4)。これは、失業率が4.5%であるにもかかわらず、FF金利の誘導目標が依然として1%を割り込んでいる理由について、その他の要因よりも適切に説明している。失業率が2007年に同様の水準であったときに、FF金利先物は5.25%だった。FRBが今もこの水準に金利を据え置いていたとしたら、1930年代の大恐慌のような不況が再び生じる恐れがあったであろう。

それでも、金融セクターの規制緩和によって民間セクターの負債水準が再び上向きのスパイラルに陥りかねないと、シナリオを描く向きもあろう。もし、このシナリオが実現すれば、FRBは状況が違った場合よりも利上げペースを速めざるを得なくなる可能性があるが、危機を引き起こすリスクがある。こうした状況は、危機が具体化するまでは金にとって悪材料になると思われ、かなり強気になると可能性は高い。こうしたシナリオは実現しないと想定すると、FRBによる足元の金融引き締めサイクルは、FF金利の誘導目標が2~3%のレンジで打ち止めになる公算は大きい。目先については、これは、金にとってあまり良い材料ではないとみられるが、もしFRBによって短期金利が長期金利を上回る、逆イールドが引き起こされれば、景気後退、そしてその後の金融緩和サイクルを警戒すべきであり、これは金にとって強材料になると予想される。

図4:債務削減はどうなっているか

供給:鉱山の産出量は増加基調にある

需要要因は、金の注目材料になりがちだが、供給の影響も見過ごせない。金鉱山の産出量が増えると、金価格は下落する傾向がある。こうした傾向は、1980~1998年、2010年以降に該当する。金鉱山の産出量が減少すると、金価格は上昇する傾向がある。金の産出量の減少は、1960年代終盤から1970年代ならびに1999年から2009年の金価格の高騰局面と一致している(図5)。

図5:金鉱山の産出量は、前年比ベースで金価格を左右する強い要因である

2011年以降の金価格の下落局面は最終的に、金鉱山の産出量の増加ペースを鈍化させ、2016年の価格安定に寄与したかもしれない。とはいえ、鉱山の産出量は増え続けている。2016年の産出量は、前年比で1.4%増加した。より重要なことは、金採掘は利益を上げ続けているという点だ。足元の価格水準について、コンサルタント会社、GFMSがまとめた「2017 Gold Survey」では、1オンス1,280ドルの水準において、世界の鉱山全体の97%はキャッシュフローがプラスになり、そのうちの94%は、オールインサステイニングコスト(AISC)ベースで利益をあげていると推定されている。さらに、金価格が1オンス1,280ドルであれば、世界の鉱山は営業利益率が約50%に達し、価格が1オンス1,050ドル近辺まで下げた数年前よりもかなり良好な状態である(図6)。 

金鉱山が依然として利益をあげているという事実があるとはいえ、鉱山産出量の拡大基調が今後も続くとは限らない。ただ、これは追加投資の強いインセンティブとなり、結果的に鉱山の産出量が増える可能性がある。金鉱山の供給が増加し続ければ、その他の要因を踏まえると、相場はかなり弱気になりかねない。FRBが利上げペースを速めれば、金は値下がりし、FRBが針路を反転して金融緩和に転じれば、上昇が抑えられるとの見方ができるだろう。

図6:産出のオールインサステイニングコスト(AISC)は足元の価格をはるかに下回っている

金が下放れすれば、オプション価格が急伸する可能性は高いだろう。大半のコモディティと金融商品は、上昇局面よりも下落局面でインプライド・ボラティリティが高まる。とはいえ、2011年9月にピークを付けた上昇局面のように金価格が急伸すれば、オプションコストも急騰しかねない。いずれにせよ、ボラティリティの今後の可能性を勘案すると、オプション価格が過去最安値近辺にとどまるとは期待しないだろう。


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著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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