【金市場】米国の財政・金融政策で強弱入り交じる

  • 11 May 2018
  • By Erik Norland
  • Topics: Metals

今年2度にわたり、金先物オプションのインプライド・ボラティリティ(Ⅳ)が9%から13.5%に増加した。5割増は比較的大きな動きのようにみえる。少なくとも最近の基準からすればそうだ。しかし、より注目すべき点がある。それは概して金相場が、いかに穏やかであるかだ。ここ2年、金オプションのⅣは近年まれにみる低水準で推移している。2015~16年に支配的だった平均17%の水準と大きく異なり、2011年と2013年に急増した30%台のはるか下だ(図1)。なぜ金市場は、それほどまでに穏やかなのだろうか。そして、これからボラティリティを掻き立てる可能性があるのは何だろうか。

図1 金オプションのインプライド・ボラティリティが今よりも大きく減ることはない

金相場で対峙する米財政・金融政策の影響力

最近の金オプションが、ここまで穏やかな一因として、金相場の方向感欠如が挙げられる。これはフェデラルファンド(FF)金利先物に反映される金利が持続的に上昇しているのを考えると驚くべきことだ。FF金利先物市場は2018年中に、さらに2~3回の利上げがあり、さらに2019年にも1~2回あると見込んでいる(図2)。通常、利上げは金にとって弱材料である。FF金利先物で表される金利の動向と負の相関になるのが普通だ。つまりFF金利先物の価格とは正の相関がある。ところが、ここ数カ月にわたり、その相関が弱まっているのだ(図3)。

図2 FF金利先物市場は4カ月前よりも、はるかに多くの利上げがあると見込んでいる

図3 金には依然としてFF金利と負の相関があるものの、かつてよりも弱まっている

その相関が弱まっている大きな理由として挙げられるのが、米国で進行中の財政悪化である。最近、米議会は税金・歳出法案を可決した。だが、その前から財政赤字はすでに拡大していた。2016年の財政赤字は国内総生産(GDP)のわずか2.2%に過ぎず、2009年の10%から縮小したものの、2017年の赤字はGDPの3.6%に拡大したのだ。そして、2017年12月の減税法と2018年3月の歳出拡大法の結果、米政府の財政赤字は2019年にはGDPの5%まで膨らむ可能性が高い(図4)。財政赤字の拡大は、貿易赤字が若干膨らんだのとあいまって、米ドルの下押し圧力となっている(図5)。それはドルが金融引き締め策のおかげであずかっているかもしれない恩恵を吹き飛ばしてしまった。金は通常、ドルと負の相関がある。つまり、ドル安は金相場の上昇要因となりやすいのだ(図6)。

図4 米国の財政赤字は、この先何年か悪化していく可能性が高い

したがって、金については、金融引き締め策という下落圧力が財政政策の緩慢化という上昇圧力によって、ほぼ完全に相殺されてしまっているといえる。こうした圧力が対峙し、ほぼ拮抗している限り、金は保ち合い相場を続け、ボラティリティは低水準に留まる可能性が高い。しかし、財政政策と金融政策は、いつまでぶつかり合っているだろうか。 

図5 双子の赤字(財政赤字+貿易赤字)はドル高・ドル安と相関がある

図6 金はドル指数と負の相関があるため、ドル安は金にとって強材料となる

財政・金融政策が協調するとき

米国が9年におよぶ景気回復を経てから拡張的財政政策の段階に入っていくのは、いうまでもなく、異常といえる。80年代の拡大期では、財政赤字は終盤の1988~89年に向けて縮小していった。90年代の拡大期では、赤字から黒字に転じた。2003~07年の短い拡大期でも、2001年と2003年に実施された減税が歳入に悪影響をもたらしたにもかかわらず、赤字は抑えられた。さらに、今回の景気拡大が始まってからの7年間でも、それらの減税と2009年の給与税引き下げが2013年に失効したため、赤字が縮小した。とはいえ、財政政策は緩慢なままである可能性が高い。しばらくの間は金の強材料となるだろう。

一方、金融政策は少なくとも数年先まで金の弱材料となりそうだ。米連邦準備理事会(FRB)が公表する「金利予測分布図(ドットプロット)」は、2018年にさらに2~3回の利上げ、2019年に3回の追加利上げ、そして2020年にも1~2回の利上げ見込みがあると示唆している。利上げが実現すれば、来年には利回り曲線(イールドカーブ)が平坦となり、2020年代前半のある時点で景気後退となる可能性が高い。FRBが景気悪化の引き金とならずに、そのペースで利上げできるか全くもって不透明だ。米経済に2007年の危機以前よりも、かなりのレバレッジがかかっていることを考えると、なおさらである。どのような景気悪化であれ、以下の2つの理由から金価格と金オプションのIVにとっては、かなりの強材料となりそうだ。

  1. 景気悪化によってFRBはゼロ金利に回帰させられる可能性が高い。そして、利下げは金の強材料となる可能性が非常に高い。
  2. 景気後退は、ほぼ確実に米財政を悪化させるだろう。それも金の強材料となる。米国の財政状況が他国よりも急速に悪化した場合は、なおさらである。

金オプションのボラティリティは、金融政策や景気循環に応じて、失業率や利回り格差(クレジット・スプレッド)とのからみで、株式・債券のボラティリティとかなり同じような動きをしているようにみえる。どれも以下の4段階で循環的に変化しているからだ。

  1. 景気後退:平坦な利回り曲線から始まって、ボラティリティは高水準化・増加し、利回り格差は拡大・拡大化し、失業率が上昇する。利回り曲線の傾斜化を特徴とする。
  2. 回復初期:急傾斜の利回り曲線と高い失業率に伴い、ボラティリティは高水準にあり、利回り格差は拡大する。失業率、利回り格差、ボラティリティは通常、この期間に絶頂に達し、収束し始める。
  3. 拡大中期:利回り曲線が依然として急傾斜ながら平坦化に向かうのに伴い、ボラティリティは低水準化・減少し、利回り格差は縮小・縮小化し、失業率は低下する。平坦化するのは中央銀行が引き締め策を始めるためである。失業率の低下は続く。
  4. 拡大後期:利回り曲線は平坦になり、ボラティリティは低水準ながら増加し、利回り格差は狭いながら拡大化する。失業率は底入れし、上昇し始めるかもしれない。

現在、5つの指標(金・米国株・米国債のオプション・ボラティリティ、失業率、利回り格差)がすべて、米国経済は拡大中期から後期にかけての段階にあると指摘している(図7と図8)。米国債オプション利回り格差失業率に関する過去の記事も参照してほしい。

過去が物語の始めであるとすれば、事態は以下のように展開する可能性がある。FRBは2018年と2019年に利上げを続け、利回り曲線は平坦になるだろう。ボラティリティは、おそらくさらに12カ月間、低水準に留まる可能性がある。だが、ある時点で、FRBは利上げを過剰に繰り返してしまうことになるだろう。金融政策の変化と各市場(サービス、製品、雇用、信用、金・米国株・米国債オプション)への影響には時間差がある。その影響は得てして12~24カ月後まで完全に現れない。つまり、金融引き締め策が始まったばかりのとき、市場がそれを無視したのは珍しいことではないのだ。しかし、それが終わった1~2年後に突如として悪影響を被ることになる。それは実際に前回の引き締め局面で起きていた。FRBは2006年6月に完了するまで17回連続で利上げをしている。それから1年間、不動産市場に亀裂が生じたとはいえ、ボラティリティと利回り格差は穏やかなままだった。米国経済は成長を続けた。ところが、2007年の夏、突然堰を切ったように、すべてが動き出したのだ。2008年まで米国経済は大不況に陥っていった。

FRBは今回、利上げを慎重に進めている。しかし、そうであっても、結局は過度に引き締めてしまう危険性がある。そして、その瞬間は多くが予想するよりも早く来るかもしれない。2019年後半あるいは2020年代前半には、市場全般(金、米国株、米国債)でのボラティリティの爆発的急増、利回り格差の急拡大、失業率の上昇を目にする可能性がある。ボラティリティと利回り格差の変動を早い段階であっても止められる人はいないだろう。とはいえ、金のボラティリティは2018年の大半で低いままである可能性が高いようにみえる。また、金融政策と財政政策が綱引きをやめ、同じ方向に引き始めると本当の爆発が始まる可能性が高いようにもみえる。

図7 金ボラティリティと利回り曲線のサイクルは、株式・債券・スプレッドと似たパターンに従っている

図8 米国株ボラティリティのサイクル(1990年以降)は第3段階を完了している

結論

  • 米国の財政政策はドル安要因であり、金の支持要因となる。
  • 米国の金融政策は金価格の頭を抑えている。
  • 金は保ち合い相場となり、インプライド・ボラティリティが急減した。
  • 金ボラティリティのサイクルは、米国株や米国債のサイクルに類似しているようにみえる。
  • ある時点でFRBの引き締めが過剰となり、利回り格差、失業率、そして金をはじめ資産価格のボラティリティが大きく変動する可能性は高い。

 

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本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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