ブラジルレアルに一筋の希望

  • 13 Aug 2015
  • By Erik Norland

この一年間、ブラジル経済は苦境に立たされている。ブラジルレアル(BRL)が米ドル(USD)に対して約35%下落した背景には、以下のような要因がある。

もし中国が人民元の引き下げを続けるなら、新興国通貨の下落圧力が強まる可能性もある。

 

  • 堅調な米労働市場を受けてFRBが利上げへと舵を切る中、米ドルが他国通貨に対して上昇している。
  • ブラジル経済は景気後退へと転落し、巨額の貿易赤字を抱える。(図1、図2)
  • ブラジルは世界第2位の鉄鉱石輸出国であるが、鉄鉱石価格の急落(図3)によってGDPが0.7%押し下げられた。(詳細は、鉄鉱石 のレポートにて解説)
  • 原油価格の暴落により、ブラジルの石油セクターへの投資が停滞した。(図4)
  • 国有石油企業のペトロブラスを取り巻くスキャンダルが、ブラジルの政治体制を揺るがした。
  •  

    図 1: 景気後退に逆戻り

    図2: ブラジルの貿易赤字には縮小の兆しも

    図3: ブラジルは世界第3位の鉄鉱石生産国、および世界第2位の鉄鉱石輸出国

    図4: 原油価格の暴落により、ブラジルの石油セクターへの投資と期待感が落ち込む

    今後の展望: レアルをどのような視点で見るか

    レアルはすでに過小評価されていて、もうすぐ底を打つのか? それとも、さらなる下落の余地があるのか? その答えは、レアルをどのような視点で眺め、どの通貨と比べるかによって異なるだろう。

    米ドルに対するスポット取引: ドルに対するスポット取引では、レアルがさらに下落する可能性がある。米FRBは、すでに利上げへの決意を固めているように見える。雇用情勢の軟化や商品市場のさらなる暴落、または株式市場の急落が起こらないかぎり(どれも起こり得ることだが)、利上げは早ければ9月にも実施されるだろう。

    そうなれば、2002年に記録したレアルの史上最安値、1ドル=4レアルをうかがう展開になることも十分に予想される(図5) 。現在の為替水準は、すでに最安値から15%の範囲内だ。

    ドルのキャリートレードに注目:  投資家はスポット取引で為替差益を得るだけでなく、金利差の利益も得ることができる。FRBが0-0.25% から0.25%-0.50%への利上げを巡って四苦八苦している間に、ブラジル中央銀行は次々と利上げを実施し、14.15%まで金利を引き上げた(図6)。 その結果、現在はレアルと米ドルの間に14%もの金利差が存在する。この金利差はレアルのロングポジションにとって大きなクッションとなり、米ドルに対してレアルが引き続き下落したとしても、キャリーによって1ヶ月当たり1%を超えるリターンが生じる。加えて、米国の実質金利はほぼゼロ(総合インフレ率を適用)、またはマイナス(コア・インフレ率を適用)であるのに対し、ブラジルの実質金利は持続的にプラスとなっている。ブラジルの政策金利にあたる「Selicターゲットレート」は14.15%だが、インフレ率は8.89%であり、インフレ率を差し引いた実質金利は5%ほどだ。米国の実質金利は、1980年代以降には一度も5%に達したことがない。

    図 5: スポットレートは2002年の安値をうかがい、再び1ドル=4レアルの水準へと向かうか?

    図 6: ブラジル中央銀行の一連の利上げにより、同国の金利は米国の金利を14%上回り、大きなキャリーを生み出した

    ブラジルレアルの先行きに対して、用心しつつも楽観的になれる理由は、キャリーの大きさだけではない。第一に、ブラジルの貿易赤字は今後縮小すると考えられる。通貨安と内需の弱さは、今後の輸入高を大幅に減少させる遅延効果をもたらすと同時に、レアル安によって輸出が押し上げられると予想される。ただし、輸出に関しては、チリ、コロンビア、日本、ユーロ圏などの通貨も同様に下落しているため、ブラジルはこれらの国との競争を強いられるだろう。もし中国が人民元の引き下げを続けるなら、新興国通貨の下落圧力が強まる可能性もある。

    レアルにとって追い風となるもう一つの要因は、ペトロブラスのスキャンダルだ。これは意外に思われるだろう。実際、冒頭ではレアルの“弱さ”の説明として、このスキャンダルに言及した。ブラジルの官僚や政治家たちが、国有石油企業から最大40億レアル(約12億ドル相当)の賄賂を受け取ったとして起訴されたことに、一体どんな肯定的側面があるのだろうか? 短中期的には、何もないだろう。1973年から1974年にかけては、米国で起きたウォーターゲート事件によってドルが下落したが、それと同じように、ブラジルでは「ペトロブラス事件」によって2014年と2015年にレアルが急落した。しかし、米国はウォーターゲート事件を機に、政府高官のスキャンダルに対しても憲法と法制度が正しく機能することを証明し、最終的にはリチャード・ニクソン大統領が辞任へと追い込まれた。同じように、ジルマ・ルセフ大統領、および前任のルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ元大統領が率いた政権の高官に対し、ブラジルの検察当局が公平に起訴を遂行できたという事実は、成熟した民主主義国家、そして法治国家へとブラジルが進化したことを示している。長い目で見れば、これはレアルにとってプラスになるだろう。

    最後に、FRBが利上げの準備を進めている現状では、新興国通貨と米ドルを比較することが難しくなっている。したがって、ブラジルレアルを米ドルと比較するよりも、特徴の似ているメキシコペソ(MXN)などと比較する方が理にかなっている。

    メキシコペソも米ドルに対しては下落傾向にあるが、ブラジルレアルほどには下落していない(図7)。加えて、メキシコの金利は3%に留まっており、ブラジルの金利より11.15%も低い。そのため、レアル/ペソのキャリートレードは、レアル/ドルとそれほど大きな差はなく、魅力的である。さらに、メキシコでは短期金利とインフレ率がほぼ一致している(図8)。 この事実は、米ドルに対して史上最安値を更新したばかりのメキシコペソに、より一層の下落の余地が残されていることの顕れかもしれない。そして最後に、メキシコの経常赤字はGDPの約4%となっており(図9)、ブラジルの状況とおおよそ一致している。将来の生産性やアウトプットを高めるために投資資金が流入しているかぎり、国の貿易赤字が問題となることはない。しかし、ブラジルやメキシコをはじめとするラテンアメリカ諸国は、ユーロ圏や日本、英国、米国といった低金利の国から逃れた投機資本の受け皿になっている。そして、その資本の大部分は、不動産投機や個人向け融資などの非生産的な分野に費やされている。こうした状況を顧みると、米国の利上げはレアルとペソの両通貨にとって脅威になり得るが、前者は後者よりも影響を受けにくいと考えられる。そのため、この二通貨間の相対価格が今後の注目ポイントになるだろう。

    図 7: メキシコペソは米ドルに対して下落したが、ブラジルレアルに対しては上昇した

    図 8: メキシコの短期金利はインフレ率をやや下回る

    図 9: ブラジルと同じく、メキシコの経常赤字はGDPの約4%

    今年のこれまでの実績では、米ドルに対する日ごとの変動において、レアルとペソは+0.54の相関度を保っている。これを踏まえると、ペソは完璧ではないものの、レアルに対する有効なヘッジとして役立つだろう。0.54という数字は、過去10年間の平均相関度とほぼ一致する(図10) 。また、ほとんどの期間において、レアルはペソよりも米ドルに対して大きく変動している点も注目に値する(図11)。

    図 10: 2005年以降、レアルとペソは+0.35から+0.75の年間相関係数(年間)で推移

    図 11: 米ドルに対し、ブラジルレアルはほぼ一貫してメキシコペソよりも大きく変動している

    本資料に掲載の情報は、あくまで情報提供を目的としたものです。助言を意図したものではなく、また助言と解釈しないでください。本資料に記載されて いる見解は、筆者個人のものです。必ずしも CME グループならびにその関連機関の見解ではありません。本資料およびその情報を投資助言も しくは実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

    免責事項

    先物取引やスワップ取引は、あらゆる投資家に適しているわけではありません。損失のリスクがあります。先物やスワップはレバレッジ投資であり、取引に求められる資金は総代金のごく一部にすぎません。そのため、先物やスワップの建玉に差し入れた当初証拠金を超える損失を被る可能性があります。したがって、生活に支障をきたすことのない、損失を許容できる資金で運用すべきです。また、一度の取引に全額を投じるようなことは避けてください。すべての取引が利益になるとは期待できません。

    本資料に掲載された情報およびすべての資料を、金融商品の売買を提案・勧誘するためのもの、金融に関する助言をするためのもの、取引プラットフォームを構築するためのもの、預託を容易に受けるためのもの、またはあらゆる裁判管轄であらゆる種類の金融商品・金融サービスを提供するためのものと受け取らないようにしてください。本資料に掲載されている情報は、あくまで情報提供を目的としたものです。助言を意図したものではなく、また助言と解釈しないでください。掲載された情報は、特定個人の目的、資産状況または要求を考慮したものではありません。本資料に従って行動する、またはそれに全幅の信頼を置く前に、専門家の適切な助言を受けるようにしてください。

    本資料に掲載された情報は「当時」のものです。明示のあるなしにかかわらず、いかなる保証もありません。CME Groupは、いかなる誤謬または脱漏があったとしても、一切の責任を負わないものとします。本資料には、CME Groupもしくはその役員、従業員、代理人が考案、認証、検証したものではない情報、または情報へのリンクが含まれている場合があります。CME Groupでは、そのような情報について一切の責任を負わず、またその正確性や完全性について保証するものではありません。CME Groupは、その情報またはリンク先の提供しているものが第三者の権利を侵害していないと保証しているわけではありません。本資料に外部サイトへのリンクが掲載されていた場合、CME Groupは、いかなる第三者も、あるいはそれらが提供するサービスおよび商品を推薦、推奨、承認、保証、紹介しているわけではありません。

    CME Groupと「芝商所」は、CME Group, Inc.の商標です。地球儀ロゴ、E-mini、E-micro、Globex、CME、およびChicago Mercantile Exchangeは、Chicago Mercantile Exchange Inc.(CME)の商標です。CBOTおよびChicago Board of Tradeは、Board of Trade of the City of Chicago, Inc.(CBOT)の商標です。ClearportおよびNYMEXは、New York Mercantile Exchange, Inc.(NYMEX)の商標です。本資料は、その所有者から書面による承諾を得ない限り、改変、複製、検索システムへの保存、配信、複写、配布等による使用が禁止されています。

    Dow Jonesは、Dow Jones Company, Inc.の商標です。その他すべての商標が、各所有者の資産となります。

    本資料にある規則・要綱等に関するすべての記述は、CME、CBOTおよびNYMEXの公式規則に準拠するものであり、それらの規則が優先されます。 取引要綱に関する事項はすべて、現行規則を参照するようにしてください。

    CME、CBOTおよびNYMEXは、シンガポールでは認定市場運営者として、また香港特別行政区(SAR)では自動取引サービスプロバイダーとして、それぞれ登録されています。ここに掲載した情報は、日本の金融商品取引法(法令番号:昭和二十三年法律二十五号およびその改正)に規定された外国金融商品市場に、もしくは外国金融商品市場での取引に向けられた清算サービスに、直接アクセスするためのものではないという認識で提供しています。CME Europe Limitedは、香港、シンガポール、日本を含むアジアのあらゆる裁判管轄で、あらゆる種類の金融サービスを提供するための登録または認可を受けていませんし、また提供してもいません。CME Groupには、中華人民共和国もしくは台湾で、あらゆる種類の金融サービスを提供するための登録または認可を受けている関連機関はありませんし、また提供してもいません。本資料は、韓国では金融投資サービスおよび資本市場法第9条5項並びに関連規則で、またオーストラリアでは2001年会社法(連邦法)並びに関連規則で、それぞれ定義されている「プロ投資家」だけに配布されるものであり、したがってその頒布には制限があります。

    Copyright © 2016 CME Group and芝商所. All rights reserved.