2018年に注目される5つのイベントリスクとその理由

2017年は平年に比べて楽観的な相場と低ボラティリティが、高まる政治的不透明感と併存する形で推移した(特に株式市場)。しかし、2018年には政治的不透明感の大きな部分で一応の決着がみられるだろう。米国の北米自由貿易協定(NAFTA)離脱と英国の欧州連合(EU)離脱(=ブレグジット)をめぐる交渉が期限を迎えるからだ。そして、今年は選挙にも注目が集まりそうだ。3月にイタリア、7月にメキシコ、10月にブラジル、そして11月に米議会(下院全議席と上院3分の1議席)で激烈な選挙戦が繰り広げられる。また、米連邦準備理事会(FRB)が利上げをどれだけ積極的に進めるか、あるいは中断するかにも注目だ。その判断材料となりそうなのがインフレ率と利回り曲線(イールドカーブ)の形状である。さらに、天気もリスクの一翼を担うだろう。ラニーニャ現象が激化してブラジルとアルゼンチンに干ばつをもたらすか、あるいは沈静化するか分かるからだ。

イベントリスクの管理は、ある意味、面白い挑戦といえる。2つの可能性ある結果には通常、スイッチのような二元論的性質があるからだ。イベント前、市場は特定商品・証券への影響という意味で、非常に異なる2つの結果の平均をとって値付けしているだろう。しかし、イベント後、市場がとった2つの結果の“平均”は、最終的にそのままで済まないはずだ。市場は実際の結果を悟ったとたん、価格を合わせてくるからである。こうした市場環境でリスク管理ツールとして有効とされるのが、オプション商品だ。なお、結果が明らかになるころ、相場が放れる(ブレイクやギャップを形成する)確率がかなり高まれば、オプション価格には通常のボラティリティ予想に加え、放れ期待のプレミアムが追加されるはずである。つまり、相場の上・下放れが存在しないことを前提としたモデル(例えば、基本的なブラック=ショールズ=マートン・モデル)でインプライド・ボラティリティを計算した場合、その可能性が加味されたプレミアムをみて、ボラティリティが過大評価されているとみてしまうかもしれない。

また、イベントの種類によってリスク管理の考慮事項が異なる。例えば、選挙のような政治イベントは、いつあるか分かるが、どうなるか分からない。干ばつのような気象イベントは、いつあるか分からないが、通常どうなり得るか、ある程度分かるし、見てとれる。こうした場合、市場は確率の変化に伴い結果の可能性を値付けしていくはずだ。

以下は、私たちが注目する2018年のイベントリスク(=課題)である。

1. ブレグジット、貿易協定、そしてアイルランド国境問題

英国がEUに相当額を支払うことで合意した現在、ブレグジット交渉の課題は貿易協定とアイルランド国境に移っている。貿易に関しては、双方で失うものが大きく、数多くの細かい点で双方の主張に大きな隔たりがあるようにみえるものの、妥協点を探る意欲が勢いを増してきたようだ。一方、アイルランド国境に関しては、不透明感が高まっている。北アイルランドの民主統一党(DUP)は、英議会で保守党に閣外協力をしており、テリーザ・メイ首相にとっては権力の維持に欠かせない勢力だ。

ところが、DUPはアイルランド国境の自由な往来、そして北アイルランドを英国の一部としてスコットランド、ウェールズ、イングランドとまさに同様に扱うことを望んでいる。これはメイ首相にとって難問である。実現可能な妥協点の目処が立たないからだ。妥協に達しない場合、英国では新たな選挙があり、通貨市場ではボラティリティが増加するだろう。

2. 貿易交渉と移民政策

NAFTAが2018年1-3月期最大の問題となりそうだ。そして、何かしらの決定が、あるいは何の決定がなくても、米国からメキシコへのトウモロコシ・牛肉・天然ガスの輸出に影響があり、またカナダを含む3カ国間で密接に内部連携している自動車業界に潜む不安要因となるだろう。メキシコでは2018年7月1日に極めて重要な大統領選挙がある。選挙前に現行メキシコ政府が何らかの譲歩をみせるのは難しい。カナダでは2018年に選挙がない。

だが、ジャスティン・トルドー首相は、まだ政権が安泰とはいえず、ワシントンからの発言に対して弱腰な態度をみせるわけにいかない。昨年12月に大きな税制改革法を成立させた米政権は、さらにひとつふたつの勝利を収めようと、貿易・移民問題に強硬な姿勢を示すだろう。したがって、NAFTAを6カ月後に一方的に脱退できる離脱通知に米国が踏み切る確率が高まっている。

また、米議会の移民政策をめぐる協議の行方によっては、ワシントン政府機関が閉鎖されるだろう。暫定予算の期限切れとなる1月19日が迫る。どこもかしこも強硬姿勢だ。つまり、イベントリスクが高まっている。政府機関閉鎖をめぐっては、いかなる土壇場の茶番劇であれ、米国債、米国株、米ドル(特に対ユーロ)相場のボラティリティを増加させそうだ。相場は不透明感に対して楽観的に育ってきた。したがって、相場にボラティリティを生むのは不透明感ではなく、実際のイベント(つまり一時閉鎖)であろう。

3. 世界中で選挙


上述のように、2018年には重要な選挙が目白押しだ。

3月にイタリアである総選挙は、緊縮財政とEU政策の是非が焦点となる。これはユーロ相場に混乱をもたらすだろう。

メキシコの選挙は、同国を苦境に陥れるかもしれない。NAFTAの再交渉で全く妥協しない可能性があるからだ。ここで焦点となるのがメキシコ・ペソ、天然ガス、牛、トウモロコシ、そしてカナダ・ドル相場である。

ブラジルの選挙は、同国をさらなる改革と経済成長に導く可能性もあれば、政治不安再燃の悪循環に後退する懸念もある。大統領選は2回にわたって実施されるかもしれない。一次投票で過半数を獲得した候補者がいなければ、3週間後に得票数上位2人の一騎打ちとなる決選投票があるからだ。同国選挙はブラジル・レアル、そしてトウモロコシや大豆といったコモディティ(商品)相場への影響力を秘めている。

11月には米国で(訳注:中間選挙が)ある。民主党は下院の支配権を奪取するため、また共和党が上院で議席を増やすのを防ぐため、一致団結した行動をとるだろう。民主党が下院を握れば、株式、債券、ドル相場に影響がありそうだ。ワシントンの茶番劇に一層拍車がかかるからである。要するに、2018年のカレンダーには政治イベントリスクが猛烈な勢いで再登場するのだ。

4. FRBとインフレ、利回り曲線、金利

ワシントンですでに選挙戦が始まっているなか、FRBはおそらく大人しくしていたいだろう。景気後退の元凶として非難されたくないのは間違いない。FRBの関心は利回り曲線の形状にある。将来のボラティリティを占ううえで統計的に利回り曲線は最善の手段であるからだ。景気後退では曲線が平坦化もしくは逆になるはずである。したがって、コアインフレが警告サインを点滅しないかぎり、パウエル率いるFRBは利回り曲線からの次への手掛りを得るだろう。また、曲線があまりにも平坦化するのを避けるため、1~2回の利上げをしてから、引き締め策を中断するかもしれない。 

5. さて、天気の話をしよう…

ラニーニャ現象の最中だ。太平洋赤道域の海面水温が平年よりも低い状態が続く現象である。逆に海面水温が平年よりも高くなるのがエルニーニョだ。これら2つの現象は、定義的には逆であるものの、影響が逆であると考えるべきではない。それぞれのイベントが独自の特徴を備えている。

今回のラニーニャはまだ、それほど激しくない。前回発生したときよりも早期に弱まる可能性があると示唆する専門家もいる。

しかし、たとえそうであれ、気象学者も農家も激化していくラニーニャの兆候に注目していると思われる。ブラジルとアルゼンチンのトウモロコシ・大豆生産地域で干ばつとなる可能性があるからだ。また、ラニーニャは、より正確にいえばエルニーニョでないことは、2017年がそうであったように、2018年の秋に米東海岸とカリブ海を激しいハリケーンが襲うリスクを高めている。


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著者について

Bluford “Blu” Putnam(ブルフォード“ブル”パットナム)CMEグループ・マネージング・ディレクター兼チーフ・エコノミスト。中銀の政策分析・投資調査・ポートフォリオ管理を中心に金融業界で35年を超える経験を持つ。2011年5月より現職。世界経済情勢に関する情報発信で中心的な役割を担う。

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