バーナンキ実験の後始末: 進捗レポート

政策金利の引き上げとバランスシートの縮小は、FRB(米中銀)が現在、金融危機への対応としてバーナンキ元FRB議長が採用した緊急避難的な政策プロセスの巻き戻しに入っていることを表している。市場への告知が入念に行われていることから、ここまで、QE(量的緩和)政策の巻き戻しや政策金利の引き上げは、実質GDPやインフレ率、または雇用市場に、目立った影響を及ぼしてはいない。一方、こうしたFRBの動向はその要因の一部に過ぎないものの、米国債の利回りや株式市場のボラティリティーには上昇も見られている。

本稿では、緊急避難的な措置を必要としなくなった経済状況に対して、FOMC(連邦公開市場委員会)が継続可能なアプローチを模索するなか、FRBの今後の政策動向を検証する。具体的には:

  • 望ましい長期的なバランスシートの規模;
  • ニュートラルな金融政策の定義;
  • 法定準備金と余剰預金に対する付利の水準を設定すると言うアプローチの終了:そして
  • フェッド・ファンドに替わり、SOFR(担保付き翌日物資金調達金利)を金利の誘導目標の対象とするアプローチへ移行する可能性を見ていく。

ある意味、FRBは2019年、市場を驚かせる可能性がある。一方で、ここで検証するパズルを完成するためには、各部分を精密に積み重ねていく必要がある。例えば、FRBのバランスシートに関して適正な規模を考察するには、ニュートラルな金融政策の構成部分に関する考察が重要となる。そして、ニュートラルな金融政策の意味合いは、FRBに銀行が設けている口座にある残高に対してFRBが金利を支払うという現状の基本的なプロセスについて、フェデラル・ファンド金利を主要な政策ターゲットとして誘導していくことに関する不適切性を指摘するものでもある。こうした議論は、興味深いものとなると思われる。

I. バランスシート縮小

2015年1月、FRBのバランスシートは4兆5160億ドルでGDPの25%を若干上回る水準に達し、直近の最高額を記録している。満期を迎える債券の全額を再投資しないことで、今後4,5年、FRBはバランスシートを継続的に縮小させる。残高が2兆5000憶ドルから3兆ドルに達した時点で、望ましいバランスシートの規模が検討され、残高はその水準へと修正されることになる。

中央銀行のバランスシートに関しては現在、その適正規模について一般的に認められた理論があるわけではない。2008年の金融危機以前、FRBのバランスシートの規模はGDPの6%程でしかなかった。比較対象として、例えばECB(欧州中銀)のバランスシートは、2008年以前の12%に対して、現状では35%に迫る水準となっている。日銀のバランスシートは、2008年以前の段階で25%近くに達しており、この水準は2012年においても同様だった。そして2013年、日銀は積極的なQE政策に移行し、全力でこれを推し進めてきた。結果、日銀のバランスシートは現在、GDPのおよそ95%に達する水準となっている。

図1.

適切なバランスシートの規模に関する議論については、金融危機前をわずかに上回る水準というところにFRBは意見を集約してくるものと考えられる。2020年代のFRBは、銀行に対して、2008年以前よりも高い準備金比率を課さないと考えられる。ただ,課さないとしても、こうした規制環境は、FRBをバランスシート縮小の方向に動かし、名目GDPが安定的な成長を続けると想定するなら、危機的ではない経済環境の下でGDPの10%、または2022年‐23年までに2兆5000億ドルほどまで、バランスシートの規模は縮小すると考えられる。

図2.

また、こうした規模の縮小は、満期を迎える債券を再投資しないと言う方法でのみ行われる。これは、保有する国債や不動産担保証券(MSB)を売却した経緯がないFRBが、将来的にこうした証券の直接売却に踏み切る可能性が低いことを前提にしている。直接売却を伴わない漸減的なバランスシートの縮小は、広く市場に告知されており、市場もこのアプローチを歓迎している。

図3.

ただ、FRBによるバランスシート縮小の影響を、経済環境を構成するその他の要因から分離するとこは難しいし、不可能でもある。例えば、この2年の間に、米国10年債利回りは著しい上昇を見せている。そして、この動きのほとんどの部分では、法人税引き下げ、議会による膨大な支出拡大承認、そしてインフレ期待の上昇が背景ともなっている。利回り上昇のタイミングから見れば、FRBによる国債やMBSの購入額縮小よりも、こうした要因の方がより重要なインパクトを市場に与えたと思われる。

また、より積極的にQEが推し進められていた当時に比べ、現状の株式市場のボラティリティーは格段の上昇を見せている。ただし、この主要因としてFRBのバランスシート縮小を想定するのも、適切ではないと思われる。財政赤字やインフィレ期待の高まりに加え、交易状況や企業収益に関する懸念が株式市場のボラティリティーを高めているのである。

II. ニュートラルな短期金利政策の達成

リーマンの破綻やAIGの救済などを契機に2008年9月の金融危機が勃発した直後、FRBはフェデラル・ファンドの実効レートをゼロ(0)近くまで低下させた。興味深いのは、当時、FRBが実効レートをゼロに設定することを嫌い、2008年12月のFOMCで、0.00%から0.25%という誘導レートのレンジを採用したことである。2009年から14年までの5年間、フェデラル・ファンドの実効レートの平均は0.13%の低水準だった。2015年12月、FRBは金融危機以降、最初の政策金利引き上げに踏み切るものの、その後に慎重度合いを高めたため、FRBは次の利上げを2016年12月まで遅らせている。以降、FRBの利上げペースは、「FOMCでの据え置き決定、利上げ、据え置き、利上げ」というパターンになっている。

現状のFRBは、フェデラル・ファンドの実効レートをコア・インフレ率と同水準、またはこれを若干上回る水準に誘導する方針であるように見える。この方針の下では、短期金利は大体において「ニュートラル」な政策の範囲に収まることになる。もちろん、「ニュートラル」な政策とは、必ずしも広く認識された定義を持つに至っていない政策ではある。2008年以前、ニュートラルな政策に関する見識には2つの要素があった: コア・インフレ率を1%から2%上回るインフレ・リスク・プレミアムと、より重要なのは、短期金利が長期金利を下回っているという、適度な傾きを持った正の利回り曲線である。この利回り曲線に関する認識は、政策金利の引き上げ上限などに関して、現在のFRBの考え方にも大きな影響を与えていると思われる。一方で、「ニュートラル」なインフレ・プレミアムについては現状、ほとんどゼロ、またはわずかなプラスでしかない。

FOMC参加者が総体として予想するインフレ率の上昇が正しいとすれば、コア・インフレは2.25%から2.5%に上昇する。さらに、FOMCのドット・プロットに従えば、フェデラル・ファンドの実効レートは、来年末までに2.75%から3.00%に達し、2020年の3%超でピークを迎えることになる。それに拘束されることがないFOMCの予想通りの水準まで金利が上昇するとすれば、2020年までに、利回り曲線は平坦化、または逆イールド化する可能性がある。これに関してはもちろん、現状、2.9%から3.0%で推移している長期金利が、短期金利やその他の要因に対して、どう反応するかも影響することになる。一方で、FRBはデータを非常に重要視していることから、例えばインフレ動向に変化が見られたとしたら、金利の先行き見通しは修正されるものと考えられる。

図4.

ただ、現状を考えてみると、政策金利引き上げに対するFEBの意欲が、利回り曲線によって制限されているのも事実である。平坦な、または逆イールド化した利回り曲線は過去、FRBが過度に引き上げ政策を推し進め、金利が高すぎる水準に至ることで – 将来的に景気後退がもたらされることを的確に示唆してきた。この関係については、60年という歴史を経て、FRBも認識している。ただ、将来とは確実なものである。現在の利回り曲線の形状が今回の局面に適合しない可能性はあるものの、FRBは警戒意識を高めている。[これに関しては、エリック・ノーランドのレポート「利回り曲線‐失業率とのフィードバック・ループ」、2018年1月9日、を参照: http://www.cmegroup.com/education/featured-reports/the-yield-curve-unemployment-feedback-loop.html. ]

III. 法定、余剰準備金に対する支払金利

市中銀行がFRBに設けている口座に差し入れている法定準備金、またそれを超える部分の余剰金に対してFRBが金利の支払いを開始したのは2008年末からに過ぎない。そして、それはこの年のパニック相場への緊急対応措置の一環としてであった。新規に導入されたフェデラル・ファンドの誘導目標レンジの上限金利をこうした資金に支払うことで、FRBは実質的に与信リスクがない安定的な金利収入を銀行システムに提供していたのである。2009年当時、こうした措置には重要性があった。

ただ、その後、短期金利が上昇する過程では、フェデラル・ファンドの誘導目標レンジが引き上げられる度に、FRBがこうした資金に対して支払う金利も上昇していく結果になった。このことは、FRBのバランスシートにおける資金調達コストを上昇させることになり、最終的に財務省に提供されることになるFRBの収益を下押しする要因となっている。ただ、短期金利の上昇、さらに、保有する国債やMBSの(金利上昇に伴う)価格下落による含み損があっても、FRBが損失を出すことはない。2008年以前、FRBは毎年、200億ドル、またはこれを少し上回る金額を、財務省に提供していた。QEを背景にバランスシートが膨れ上がったことから、2013年‐17年におけるFRBの提供額は毎年、800億から1000億ドルの水準まで増加している。ただ、金利がさらに上昇し、国債やMBSの価格が一段と低下(利回りは上昇)する中、ここからは、前年比のFRBの収益はある程度、低下傾向となっていくと予想される。

図5.

利回り上昇とバランスシート縮小に伴って収益が低下する環境では、FRBは準備金に対する支払金利に連動しない形で、市場に短期金利の上昇・低下を促す政策手段を検討するであろうと思われる。そして、ここには2つの可能性がある。第1に、法定、余剰準備金に対する支払金利を、金融危機が発生した2008年以前のようなゼロ%まで戻さないとしても、低下させる可能性である。第2に、金利政策の対象として、フェデラル・ファンド以外の指標にFRBが移行する可能性である。

ここでは、フェデラル・ファンドを金利政策の対象として用いることで発生する、2つの課題を検討してみたい。最初に、フェデラル・ファンドの実効金利を政策金利のレンジ内で維持するためには、法定、余剰の準備金に対してFRBがレンジの上限金利を支払うことが必要となる。次に、フェッド・ファンドの取引が、かつてとは様変わりしているという現状がある。

FRBには3種類の債務がある: (1)市中に出回っている通貨(2018年4月25日時点で1兆5000億ドルに及ぶ)、これには金利負担が発生しない; (2)銀行を始めとする預金機関の預金残高(2兆ドル)、法定、余剰の準備金を含むこうした資金に対しては、フェデラル・ファンドの誘導レンジの上限金利が支払われる; そして(3)その他(米国財務省口座、海外機関の公的口座、レポ口座、等で7000億ドル)、債務の種類によって資金の調達コストは多少異なる。

2008年の危機以前、そしてその後にFRBのバランスシートが拡大する局面を通じて、余剰預金の規模は現状よりも抑制された水準だった。通常、企業向けの貸し出しに強みを持ちつつ、コアな預金ベースが弱い銀行にとって、他行の余剰預金を借り受けて法定準備金を維持することは、特別なことではなかった。同様に、預金ベースに強みを持つ銀行には法定準備金を上回る資金(余剰)が生まれることになり、法定準備金を満たすための資金を必要としている銀行との間で、フェッド・ファンド(FRBに設定された銀行の当座預金口座間で)の貸し借りが行われる。買戻し契約(レポやリバース・レポ)を通じて、一時的に(フェッド・ファンド内の)銀行システムを流れる資金量を増加させたり、減少させたりすることで、銀行間の翌日物の資金取引に影響を与え、FRBはフェッド・ファンド金利を誘導してきたのである。

図6.

一方で、2008年以降、余剰準備金が増大する過程では、法定準備金を維持するために資金を必要とする銀行が減少した。さらに、膨大な余剰資金が背景となって、買戻し契約によるFRBの資金供給量調整に対する市場の反応は、ほとんど見られなくなってもいる。買戻し(リバース)契約による資金量の調整をFRBは続けているものの、これによるフェッド・ファンド金利への影響は急速に低下しているのである。フェデラル・ファンド金利において、政策金利引き上げに伴って一段と高い誘導レンジを強要する主な手段は、準備金に対して支払われる誘導レンジの上限金利を引き上げることに収束してきているのが現状である。同様に、預金機関がフェデラル・ファンドでの借り入れを必要とする場合、支払金利はディスカウント・レート、もしくはフェデラル・ファンドよりも高いものとなる。こうした背景から、フェデラル・ファンド市場の取引は誘導レンジの上限を10から15ベーシス・ポイント(年率)下回る水準で、(例外があるとしても月末の数営業日に限られ)非常に安定的な推移となっており、実勢の市場金利は至極簡単に誘導レンジの範囲内に収められているのである。一方で、例えば2018年4月の日中取引高平均は750億ドルほどで、 – 売買高は通常、あまり高くない。フェデラル・ファンドがもはや、真に翌日物金利の指標として取引されているわけではないことが示唆されているのである。

従って、ここでは、2つの決断を迫られていることになる。それは、準備金に対してFRBが支払う金利をどうするかであり、フェデラル・ファンドよりも翌日物金利を的確に反映する指標を前提に、政策金利の対象となる新しい指標をFRBは設定する必要がある、と言うことである。フェデラル・ファンドに替わる新しい指標を設定したとすれば、準備金への支払金利を短期金利の誘導レンジを下回る水準に設定するなど、FRBは新しい、そして柔軟な手段を入手することになる。

もちろん、こうした議論には課題も多く、結果を出すまでには時間を要するものと思われる。例えば、準備金に対して(誘導レンジの上限と言う)割高な金利を払うこといよって、銀行の与信拡大傾向を抑制する効果も指摘できる。経済学者の多くは、伝統的なマネタリスト主義で教育された人たちは特に、FRBのバランスシートが膨大な額に肥大化することで爆発的な与信拡大が引き起こされ、(1970年代の様に)インフレ率が暴走する状況に至ることに対する懸念を一貫して主張してきた。ただ、現状、懸念された様な状況には至っていない。さらに、準備金に対する割高な金利収入に加え、銀行は厳格な資本規制を課せられてもいる。その意味では、ゼロ金利政策や莫大な額のQEを通じて、FRBが数兆ドル単位の資金を銀行の準備金に積み増したとしても、銀行には元々、与信枠を拡大する余地があまりなかったとも言える。一方で、余剰準備金に対する支払金利が、例えば市場の短期金利水準を下回る、「罰則」的な水準であったとしたら、銀行には、資本比率が許容する範囲で、より高い市場金利で資金を運用する動機付けとなる。そこで、ここからは、短期金利の誘導対象となる指標に関して、FRBにはどんな選択余地があるのかを考察していく。

IV. フェデラル・ファンドに替えて、SOFR(担保付翌日物調達金利)を誘導対象の指標に

少しだけ、FRBの歴史を振り返ってみよう。第2次世界大戦の間、そして終戦後の数年間、財務省とFRBの戦時中の合意に基づいて、短期金利の誘導対象は政府短期証券の利回りとされていた。終戦後、当時のトルーマン大統領は、1%以下など、短期金利を低位に維持する方針だった。ところが、FRBがこの方針に反対したことから、財務省との間で大議論が巻き起こる結果となった。金融政策に関するこの議論は、1951年の合意でFRBが財務省からの独立を勝ち取り、終結する。

そして1950年代、銀行の法定準備金水準をFRBが政策ツールとして活用するようになったことから、フェデラル・ファンドが誘導金利の対象指標として浮上してくる。政策金利を反映する主要な指標としてフェデラル・ファンドを利用することに切り替えたこともあって、FRBは1954年、日々のフェデラル・ファンド金利の公表を始めている。以降、金融政策としては、法定準備金比率や通貨供給量のターゲットが先行する場面もあったが、金利政策を定義する上では、常にフェデラル・ファンドを指標としてきたのである。1979年10月から1980年代半ばまで、ポール・ボルガ―FRB議長の時代には短期的に、通貨供給量が政策ターゲットとなった期間もある。ただ、その後、顧客口座に対して銀行やノンバンクが金利を払う手順が変更され、証券会社には顧客口座への付利が解禁される。さらに、準備金の計算方法が(それまでの後追い方式から)即時方式に替わるなどの変化を経て、インフレと通貨供給量の間の相関性は実質的に喪失したのである。1980年末、フェデラル・ファンドを金融政策の対象指標とする方針を確立したのは、当時のアラン・グリーンスパンFRB議長だった: 2008年の金融危機を背景に、政策金利を実質ゼロ%とするため、誘導レンジが導入されたのは2008年12月末のことに過ぎない。

1950年代初め、政府短期証券がFRBの金利政策の対象指標としての適切さを失ったのと同様に、金融機関が与信枠を拡大・縮小する際のコスト意識や動機付けの指標として、現状のフェデラル・ファンド金利は適切さを失っているのである。そして、これに替わるものとして、新しい指標であるSOFR(担保付翌日物調達金利)がある。SOFRはレポ金利、または担保付翌日物金利をベースに、ニューヨーク連銀が算出する参照レートである。米ドルに関して、LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)の代替え指数を調査する委員会によってデザインされた指標として位置付けられている。この委員会にはFRBを始め、財務省、銀行、取引所など、金融市場から広く人材が集められている。  [参照: https://apps.newyorkfed.org/markets/autorates/sofr]  2018年4月における翌日物の日中取引は7500億から8500億ドルで、市場規模はフェデラル・ファンドのおよそ10倍となっている。その意味でSOFRは、翌日物金融市場の動向を広く反映する指標であり、預金機関に限らず、広い意味での経済行為を反映した、市場ベースの金利指標であると言える。さらに、FRBには、レポ操作を通じて短期金利を誘導することに関して、長い経験もある。

最終的に、FRBはフェデラル・ファンドに替わる対象指標に移行するのだろうか? 次の指標はSOFRなのだろうか?これは、分からない。2008年以降のQEが終了した環境においては、フェデラル・ファンドが反映する以上の指標性が、金融政策の対象指標には強く求められていると考えられる。さらに、FRBは、金融政策上の誘導金利と、自身が支払うことになる余剰資金に対する金利を連動させないことによる有利性を、充分理解していると考えられる。

 一方で、SOFRが見劣りするのは、過去データに乏しいと言う事実である。ニューヨーク連銀がSOFRの日毎の公表を始めたのは、2018年4月2日のことでしかない。計算値による過去データも数年分を遡るのみであり、2017年末から2018年初めまでの期間については、これから提供があるものの、現状ではデータが欠落している。こうした状況ではあるが、FOMC内部での議論は近々に始まるものと思われる。もちろん、この議論は今後1年、もしくはそれ以上を要するものとなる。調査されるべき項目も、数多く存在する。イングランド銀行で金融政策委員を務めたチャールズA.E.グッドハートは、「中銀が特定の尺度を指標とすれば、その尺度の性格は永遠に変化させられる」と言っている。現在、Goodhartの法則として知られているこの見識は多くの状況に通じるもので、ハイゼンベルクの不確定性原理の派生真理として認識されるべきものかもしれない。この見識から示唆されるのは慎重なニュアンスであるものの、本稿では、FRBが誘導指標に関する変更を模索し、準備金に対する支払金利を考慮する中で、そして、現状ではこうした課題に関する議論が本格化してもいない状況でありながら、変化は思ったよりも早く現実化する可能性がある、を見通しとしておきたい。

V. 要点

現状の経済環境と規制フレームに適合する、継続的な金融政策の構築を模索するFRBは、非常に興味深い課題をいくつか抱えるに至っている。FRBが抱えるこのパズルを解決するには、議論に関わる複数の相互依存の関係に細心の注意を払いながら話を組み上げていく必要がある。

  • 最初のステップは、中銀のバランスシートの最適な規模はどれくらいかであり、2020年代にFRBが見付ける落ち着きどころとして、名目GDPの10%から12%程度の可能性が高い。
  • 次のステップは、ニュートラルな金融政策とは何を指すのかである。ニュートラルな金融政策では、インフレ率を上回り、利回り曲線の定款化を回避するため、誘導金利のプレミアムが段階的に上昇する可能性がある。
  • 政策動向に関しては、準備金に対してFRBが支払う金利に関する議論も重要であり、この金利を低く抑えたいという動機付けもFRBにはある。
  • 金融政策の主要な対象指標として、フェデラル・ファンド金利がその適正さを失ってきていることは、これまで以上に明白となっている。
  • SOFR(担保付翌日物調達金利)は、FRBが政策の対象とする新指標として有力な候補である。
  • こうした政策変化に関する議論は近々に開始され、今後1年、またはそれ以上の時間を要すると考えられる。調査されるべき案件は、多く存在する。

 

免責事項

本レポートに掲載された例は、いずれも状況を仮定的に解釈したものです。あくまで説明のために使用しています。このレポートに記載されている見解は著者自身のみによるものであり、CME Groupや付属機関の見解を必ずしも表しているものではありません。本レポートおよびその内容を、投資の助言または実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

 

著者について

Bluford “Blu” Putnam(ブルフォード“ブル”パットナム)CMEグループ・マネージング・ディレクター兼チーフ・エコノミスト。中銀の政策分析・投資調査・ポートフォリオ管理を中心に金融業界で35年を超える経験を持つ。2011年5月より現職。世界経済情勢に関する情報発信で中心的な役割を担う。

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著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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SOFR先物

5月7日、当局の審理完了を前提に、SOFR先物が取引を開始する。3カ月物ユーロドル先物、フェッド・ファンドや債券など、流動性の高い先物と並行上場されることで、CME Globexを介して容易に商品間のスプレッド取引が執行できるだけでなく、リスク相殺による証拠金軽減措置が適用されていることから、を資金効率の改善を見込むことも出来る。

SOFR先物の詳細