欧州:統合と分離に対する相場の見解

欧州では、統合と分離の、相反する勢力が対峙している。そしてここ2年では、それぞれが、ぞれぞれに重要な勝利を収めてもいる。EU離脱を決めた英国の国民投票、スペインからの独立を選択したカタロニア州の住民投票、そしてAfD(ドイツのための選択肢)が議席を獲得したドイツの議会選挙などは、分離派に勝利をもたらしたと言える。一方で、オランダの議会選挙における極右政党の敗退、フランス大統領選でエマニュエル・マクロンが勝利したことなどは、欧州の一段の統合を望む勢力の勝利だった。

英国のEU離脱や欧州の一段の統合、さらには数多く存在する独立運動の合法性などについては、意見が分かれるところである。ただ、これに関して市場は、政治的な統合を一段と進めることが好ましいというスタンスを明確に示している。

  • 出口調査では、結果として残留有利の誤った予想がされたこともあって、EU離脱を選択した英国の国民投票では、英ポンド(GBP)が最初、対米ドル(USD)で1.45から1.50に上昇した後、離脱の結果が明らかになるにつれ、先ず1.32へ、そして1.18へと、急落する動きとなった。同じ日にユーロは対米ドルで3%、その後の6か月間におよそ10%の下げを経験する。
  • 一方、ヘルト・ウィルダースが率いる反欧州の自由党が大敗したオランダの議会選挙を受けて、ユーロはその後の一週間で、米ドルに対して2%の上昇を見せている。
  • また、国内の経済改革と欧州の一段の統合を訴えたマクロンが、フランス大統領選挙を制したことを受けた相場で、ユーロは10%の上昇を見せ、2年半ぶりの高値を付けている。
  • ただ、9月に実施されたドイツの議会選挙では、AfDが予想通り議席を確保しただけでなく、アンゲラ・メルケル首相の勢力が事前予想を5-6%下回る結果となり、非常に親欧州の緑の党、そして一段の統合には反対の立場を取っている自由民主党との間で、面倒な連立を模索せざるを得ない結果になったことを受けて、こうした市場の流れが中断する結果になった。
  • さらに、カタロニア州の住民投票がスペインからの独立を選択したことで、ユーロは1%の日中下落率を記録し、マクロン勝利によってもたらされた上昇分をさらに削ることになった。政府が違法とし、武力行使による阻止を図ったことで900人近い負傷者を出した10月1日の住民投票では、スペインからのカタロニア州独立を90%近くが支持した。

いずれの場合でも、国内、または国家間の一段の融合に前向きな勢力の勝利には通貨高で、これに反対する勢力の勝利は通貨安で、市場は反応している。 

もちろん、政治的な懸念に加えて、ユーロ圏、英国、米国、それぞれの相対的な経済力や金融政策の方向性など、ユーロ米ドル(EURUSD)とポンド米ドル(GBPUSD)の相場動向には多くの要因が影響する。さらに、ユーロ圏や英国の景気回復が確固としたものになっているのと同時に、市場が期待を寄せる経済改革案の採択に米国議会が手間取っている様に見える状況も、欧州通貨が堅調に推移する一方で、米ドルが上値の重い展開を続ける2017年の相場の背景となっている。  

驚くべきなのは、政治的な懸念と、大西洋を挟んで、金融政策の乖離が発生する中で、オプション市場がこれに大きな反応を見せていないことである。ここ10年来、EURUSDの90日オプションの予想ボラティリティーは、5%から18%のレンジとなっている。7%ほどまで低下している最近の水準は、このレンジの下限に近い。同様に、2011年1月1日以来、GBPUSDの90日オプションの予想ボラティリティーは5%から19%のレンジであり、直近では8%の水準で推移する結果となっている(図1)。  

1図 1: 12オプションの予想ボラティリティーはレンジの下限近くにあり、市場懸念の欠如を反映している

実際、米国、英国、そして欧州大陸の不安定な政治環境を考えると、こうしたオプション市場の反応は通常以上に楽天的なものとなっている。もちろん、プットやコールなどのオプションが低価格帯に張り付いているのは、EURUSDやGBPUSDに限ったことではない。豪ドル米ドル(AUDUSD)や加ドル米ドル(CADUSD)、ドル円(JPYUSD)などの通貨ペアでも、それぞれのオプション価格は歴史的な安値水準となっているのである。さらに、株価指数先物、国債、貴金属などのオプションでも、価格は歴史的安値となっている。

指摘した4つの資産クラスで予想ボラティリティーが低水準となっている事実に関しては、米国中銀(FRB)、欧州中銀(ECB)そして日銀などによる、巨額の資金供給を共通の要因として指摘できる。緩和的な金融政策は膨大な資金を市場に供給しているのであり、通貨、債券、株式、金属などの市場では特に、市場価格に影響を与えることなく売買を執行することが、市場参加者にとってはことさら容易になっているのかもしれない。  

そう考えると、現時点での市場リスクは、中銀による引き締めへの政策転換ということになる。政策金利引き上げのサイクルに入っているFRBは、既に4回の引き上げを実施しているし、今月からは、バランス・シート上の膨大な資産の縮小プロセスを開始する予定である。FRBはこれに加えて、今年12月に再度の利上げを行うこと、政策金利では来年も引き上げが続く可能性が高いことを、市場に織り込ませた状況となっている。FRBに対する政策期待は特に、EURUSDの相場動向を決める主要要因となっているのである(図2)。

1図 2: フェッド・ファンド先物と欧州通貨/米ドル

同時に、英国中銀(BOE)は、2006年以来初となる政策金利の引き上げを考慮しており、ECBは資産の購入ペースのさらなる減速を検討している。もちろん、こうしたことが、直ちに市場ボラティリティーの短期的急上昇を発生させるわけではない。ただ、英国とEUの(進展に乏しい)離脱交渉やカタロニアの独立運動、連立政権樹立で苦慮するメルケル首相や朝鮮半島情勢、さらには米国議会の現状などは、可能性として、来るべき反応を市場に蓄積させ続けているとも考えられる。

過去データでは、株式市場のボラティリティーはフェッド・ファンドの動向に、12-24か月遅行する結果となっている。さらに、金融政策引き締めに1-2年遅れてボラティリティーの上昇が確認される傾向があることを考え合わせると、ここまで、欧州などでの最近の出来事に対して市場の反応が乏しかったのは驚くには当たらないのかもしれない。実際、FRBが実質的な引き締めに移行したのは9か月前でしかない。その意味では、市場の流動性が縮小したことによる強いインパクトを市場が認識するのは、早くても2018年で、その前ではない。ただ、欧州通貨のオプションに関しては、短期的な視点からも、過剰に楽観的過ぎると思える背景もある:

  • 英国とEUの離脱交渉は大きな懸念材料であり、加えて、メイ英国首相の連立政権は脆弱な多数派工作の上で成り立っている。ソフト・ブリグジットはGBPを大きく上昇させる可能性が高い。一方で、ハード・ブリグジット、または英国での政治的な混乱は、GBPを国民投票以降の安値水準に再び突き落とす可能性がある。
  • スペインでは、国王や首相の意向に反して、カタロニア州政府が独立を宣言する可能があり、状況は増々、流動的になっている。
  • キリスト教民主(CDU)/社会同盟(CSU)/自由民主党(FDP)/緑の党による連立政権樹立は困難であり、不安定なものとなる可能性がある。結果として、欧州の一段の統合を推し進めようとするメルケル独首相とマクロン仏大統領の努力に対して、その障害となる可能性も指摘できる。
  • 近々にイタリアで選挙が実施される可能性もあり、欧州情勢には新たな一石が投じられることになりかねない。
  • 主要改革や欧州の一段の統合を推し進めるなか、マクロン仏大統領の支持率は40%を下回るに至っている。
  • スペインやイタリアの国債を購入できなくなるという意味において特に、ECBが最終的に資産購入縮小に至るということによって、市場には乱高下がもたらされる可能性がある。
  • FRBのイエレン議長やECBのドラギ総裁が任期満了を迎え、トップ人事の変更が予定される中では、現在の織り込み度合いを超えてボラティリティーが高まる可能性がある。

結論

  • 欧州や米国は景気が拡大期入りしてから時間が経過しているものの、2008年の金融危機の際に顕著となった政治的な緊張感が残存しており、引き続き、為替などの市場動向に対する影響要因となっている。
  • 政治的な距離感が高まる環境の中で一段の統合を進めようとする勢力があることは、通貨市場にとって継続的な影響要因となっている。
  • 金融政策の乖離は、これまで以上に極端になっている。
  • 数年来続いている緩和政策の下で、オプション市場は過剰に楽観的となっているのかもしれない。
  • 金融政策の一段の引き締めによって、予想ボラティリティーは強気相場となる可能性もある。

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著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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