エルニーニョ、ラニーニャ、市場のボラティリティ、そしてオプション取引

  • 20 Nov 2015
  • By Erik Norland

発生している現在のエルニーニョ現象は、過去データとの比較でも強い影響度を持つものとなっており、11月から来年1月までの間に、そのピークを迎えると予想されている。その後、急速に勢力を減退させるとも予想されているが、穀物の生産や価格動向に対する影響については、その後も継続する可能性がある。トウモロコシ価格の上昇を始めとする、農産物市場へのエルニーニョの影響については、以前のリポート(エルニーニョ現象 - トウモロコシ、牛、豚への影響と、あなたが知っておくべきこと)で指摘した通り、太平洋の赤道付近でエルニーニョが発生し始めた段階から1年、2年という期間で継続するのである。

今回のリポートでは、エルニーニョと、その逆現象であるラニーニャ、そして農産物市場のボラティリティ(価格変動率)の関係を検証する。

エルニーニョは、太平洋上の赤道面中央や東央の海水の表面温度が平均を超えて上昇することにより発生する、気象における大規模な異常現象である。高温の海水はより多くの水を蒸発させ、この過剰な湿り気が通常以上の降雨を何処かにもたらす。何処にもたらすかは風の吹き方次第だが、実際には、太平洋上の赤道面における水温の上昇は北米での暴風進路を南下させることにもなるので、エルニーニョは風の吹き方にも影響を与えることになる。

1972年/73年と1997年/98年に発生した強度のものと同様に、現在のエルニーニョについても、強度のものの多くがそうである様に、急速にラニーニャに変化していくものと予想されている(図1)。太平洋上の赤道面中央や東央の海水の表面温度が平均を下回ることで発生するラニーニャは、天候や風、気流などで、エルニーニョの場合とは逆の現象を引き起こす。実際、エルニーニョの場合とは逆に、過去データから、ラニーニャは農産物価格の下落と関連付けられることが多い。従って、現在のエルニーニョがピークを経て、2016年末から2017年初めにかけてラニーニャに変化していく可能性は、農産物市場の参加者にとって注視するべき材料なのである。結果として、市場ボラティリティの上昇、そしてヘッジとして購入する必要があるオプションの価格上昇を招くことになるからである。

ボラティリティに関しては, トウモロコシ、大豆、小麦で、以下の関係が実証されている:

  1. エルニーニョ期におけるボラティリティは、平均水準で推移する
  2. ラニーニャ期におけるボラティリティは、平均水準を大きく上回る
  3. エルニーニョでもラニーニャでも、ボラティリティの水準はそれぞれで異なる
  4. エルニーニョでもラニーニャでも、強度であればあるほど、ボラティリティが平均水準を上回る可能性が高くなる

前述のリポートでは、エルニーニョの場合は摂氏+1度、ラニーニャの場合には同-1度、任意の水準から気温指数が動いた段階を起点として、市場の前年ベースのスポット価格をインフレ調整したデータを用いた(図2)。また、結果をスムーズ化するため、直近限月の先物価格の20営業日(およそ1か月分の)移動平均をスポット価格とした。例えば、1963年9月に水温が過去平均を摂氏1度上回ったとしたら、月間平均の市場価格の変化を1963年の9月から翌年の9月まで観察した。ここでは、トウモロコシ、大豆、小麦について、日中ボラティリティの変化を年率換算で観察したことになる。

図 1:  多くの場合、エルニーニョは急速にラニーニャに変化する

図 2: 平均温度から+1度/-1度となってから1年後のインフレ調整済みスポット価格変化

ボラティリティ

全体として、エルニーニョ期のボラティリティは、通常値と大きく変わらない。ここでの「通常値」とは、太平洋の水温が平均から摂氏+1度/同-1度以内の状況を指している。反対に、強度のラニーニャが発生すると、農産物市場のボラティリティは格段に上昇する傾向がある(図3、4、5)。これについては、水温指数が-1度の限界点を超えた後に発生する市場の下落トレンドとの関連性が指摘される。一般に、上昇市場よりも、下落市場の場合にボラティリティは上昇する傾向が強いからで、これについては、エネルギー市場、金属市場、株式市場、そして農産物市場でも同様である。

また、ラニーニャの期間にボラティリティが高まるという傾向については、トウモロコシ、大豆、麦の市場でも同様となっている。その上で、個々のボラティリティについては、それぞれのエルニーニョやラニーニャによってその程度が異なる(図6-11)。ただ、これに関する背景として、1960年代のボラティリティが、その後の推移に比べて、概して低かったことを指摘しておきたい。

更に、エルニーニョとラニーニャが、それぞれのピークを形成する過程において発生する農産物市場のボラティリティの水準についても、連動性が指摘される。また、この連動性は、エルニーニョよりもラニーニャの方で、トウモロコシよりも大豆、そして特に小麦において強く示唆される(図12‐17)。これらの図(12-17)については、連動率と共に、こうした高い連動率がランダムに算出される可能性を示すp 値を、各連動率とデータ個数を考慮して算出してある。例えば、p値が5%の場合、今回使ったデータ個数であれば、掲載した連動率がランダムに算出される可能性が5%あることを示している。

図 3: ラニーニャ期のトウモロコシ市場のボラティリティは高くなる

図 4:  ラニーニャ期の大豆市場のボラティリティは高くなる

図 5:  ラニーニャ期の小麦市場のボラティリティは高くなる

図6:  エルニーニョとトウモロコシ市場

図 7 : ラニーニャとトウモロコシ市場

図 8: エルニーニョと大豆市場

図 9: ラニーニャと大豆市場

図 10:  エルニーニョと小麦市場

図11: ラニーニャと小麦市場

図 12: エルニーニョの強度推移とトウモロコシ市場のボラティリティ

図 13:   ラニーニャの強度推移とトウモロコシ市場のボラティリティ

図 14:   エルニーニョの強度推移と大豆市場のボラティリティ

図 15: ラニーニャの強度推移と大豆市場のボラティリティ

図 16: エルニーニョの強度推移と小麦市場のボラティリティ

現在のエルニーニョが強度であるという事実は、市場ボラティリティが一段と高まる可能性を示唆するものとなる。更に、現在の強度なエルニーニョが今後12か月で強度なラニーニャに変化する可能性があることは、先々の農産物市場において、市場ボラティリティが一段の高まりを見せる可能性を示唆していることにもなる。一方で、こうした可能性が、現行の市場に影を落としている形跡は乏しい。トウモロコシ、大豆、小麦などの市場で取引されるオプションの予想ボラティリティは、ここ5年来で最低水準となっているのである(図18)。

図 17: ラニーニャの強度推移と小麦市場のボラティリティ

図18:  懸念軽薄な市場? 予想ボラティリティはトウモロコシ、大豆、小麦で5年来の低水準

実際、現在のエルニーニョが終焉を前にして、ボラティリティ上昇の要因となることはあり得る。ただ、ここまで、現在のエルニーニョが農産物市場の価格動向に大きな影響を与えてこなかったのは事実である。トウモロコシ、大豆、小麦のカナダや米国での生産は相当水準だったし、アルゼンチンやブラジルでは大豆や小麦が豊作だった。実際、エルニーニョは南アメリカの産地で豊作をもたらし、農産物市場の下押し要因となった可能性を指摘する向きもある。その可能性はあるが、一方で、こうした議論には懐疑的にならざるを得ない。穀物価格に対するエルニーニョの影響については、1年、または1穀物年度など、サイクルの一巡を待って検証するべきだからだ。ここで使った定義(平均水温より摂氏+1度)では、現在のエルニーニョは6月に発生したに過ぎない。このエルニーニョはその意味で、今後数か月、市場に影響を与え続けることになる。 

要点

  • トウモロコシ、大豆、小麦などの市場における予想ボラティリティは非常に低い水準で推移している。現状のエルニーニョがボラティリティの上昇を招くとすれば、その買い場が示現していることになる。
  • 1973年や1998年の事例の様に、現在の強度のエルニーニョが強度のラニーニャに急変するとすれば、ボラティリティは急伸する可能性が高い。
  • エルニーニョの度合が強ければ、ボラティリティは高くなる傾向がある。この傾向は、特にトウモロコシと小麦の市場において顕著となっている。
  • 強度とボラティリティの連動性については、エルニーニョよりも、ラニーニャの方が高い。この傾向は、トウモロコシ、大豆、小麦の市場においても同様である。
  • 現在のエルニーニョの影響を判断するのは時期尚早であり、正当な評価は、今後半年から1年半の経過観察を必要とする。
  • オプションの「デルタ」に注意する。現在のエルニーニョがピークを形成する段階では、その強度の失速スピードがラニーニャへの変化の速さとその強度を示唆する可能性がある。
  • 短期的には、中国などでの備蓄が高水準となっていることから、農産物価格は下落圧力を受け易い相場環境が続く。

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