エルニーニョによる天然ガス下落は神話なのか

  • 29 Jul 2015
  • By Adila Mchich and Erik Norland

2015年も秋口に向かうなか、強いエルニーニョが太平洋上で形成されている。その規模は、1997年から98年にかけて発生し、北米の天然ガス市場に大きな衝撃をもたらしたときに匹敵するかもしれないという。 

エルニーニョとは、太平洋赤道域の中央部から東中央部にかけて海面の温度が平年よりも高くなる大規模な気象現象だ。この異常気象は、得てしてカナダ中西部と米北西部の気温を上げ、フロリダとメキシコ湾岸部に冷たく湿った天気をもたらす。また、太平洋赤道上の海水は、暖かくなった後で、今度は平年よりも低くなることがよくある。この現象がラニーニャだ。いうまでもなく、ラニーニャはエルニーニョと真逆の結果をもたらすことが多い。つまり北米の大部分で気温が平年よりも低くなるのだ。エルニーニョもラニーニャも通常は3~6月に始まり、そして11~2月に最高潮となる。

図 1.

長い目でみると、データから明らかなように、エルニーニョとラニーニャは天然ガス価格の大きな変動要因とはいえない。

天然ガスは、需給両面でかなり非弾力的な(訳注:値動きで需要や供給の量が変わりにくい)市場だ。そのため価格は、生産・備蓄水準・天候といったファンダメンタルズの短期的変化に対して、かなり敏感に反応しやすい。また天然ガス先物の限月間のサヤには循環性があるとされている。住宅・工場・発電所からの消費に季節性があるためだ。ファンダメンタルズに不測の変化があると、需給の不均衡、高いボラティリティ、荒い値動きが生じやすくなる。

それでは、エルニーニョとラニーニャが「ヘンリーハブ天然ガス先物価格」に大きな衝撃をもたらした実例を挙げよう(ただし、必ずしも予想どおりの影響があるわけではない)。エルニーニョは、そのときによって規模と期間に違いがある(図1)。米国は、1997~98年の暖房を使う季節に、過去最大の規模となったエルニーニョの影響を受けた。詳細な記録を取り始めた1895年以降で2番目に暖かい天気となったのだ。米北部の気温は平年よりも高くなった(米南部は低くなった)。そしてこの通常よりも温暖な気候によって、天然ガスの在庫は過剰となり、供給は過多となったのである。図2にあるように、1997年夏から秋口にかけて上昇していた天然ガス先物は、一転して下落、1998年夏に1.65ドルの安値を付けた。この冬のガス価格は平均1.92ドルだ。この水準は季節的平均値よりも20~25%低い。

ところが、太平洋赤道域の水温は1998年半ばまでに冷たくなり、1998~99年と1999~2000年の冬に、ラニーニャによる気象パターンが形成された。つまり、今度は暖房を使う季節に大消費地である米北東部の気温が連続して平年を下回ったわけだ。その前の冬よりも多くのガスが消費された。天然ガス価格は1998年後半から1999年にかけて戻していき、2000年には高騰したのである(図3)。

図 2.

図 3.

1997年から2001年にかけてのエルニーニョとラニーニャは、まさに予想どおりの衝撃を天然ガス価格もたらした。

  • 1997~98年のエルニーニョによって、平年よりも暖かい冬となり、冬季の天然ガス需要が減少、供給過多と価格下落がもたらされた。
  • 1998年、99年、2000年のラニーニャによって、米国とカナダのほとんどの地域で平年よりも厳しい冬となり、供給にかかる負担が増加、結果的に価格高騰が助長された。

しかし、より長い目でみると、エルニーニョとラニーニャのサイクルが天然ガス価格にもたらす衝撃は、決して明々白々というわけではない。ときには、直感に反する動きをみせている。

そこで、エルニーニョ、ラニーニャ、そして天然ガス価格の関係を分析するため、天然ガス先物期近の価格を使ってスポット価格を模造し、3つの条件に分けて検証してみた。

  1. エルニーニョ期のみ(エルニーニョの間、買いのみとした場合)
  2. ラニーニャ期のみ(ラニーニャの間、買いのみとした場合)
  3. 全期間(エルニーニョとラニーニャの両方で買いのみとした場合)

期近(最も満期に近い限月)の先物価格を使ったのは、ヘンリーハブのスポット価格と最も結びつきが強いからだ。適切なローリングをしなくても、期近の時系列データを使う(期近が満期となれば次の限月に再投資する)ことで、スポット価格の動きの代わりとなる。

しかも、期近をつないでスポット価格を模造するのには、日々の値付けの面でも利点がある。実際のところ、毎日スポット価格で取引があるわけではない。しかし時系列データの穴をそのままにするのは問題がある。その問題を大きな流動性を誇る先物市場で簡単に避けられるのだ。

図4は、1990年4月に天然ガスの取引を始めた場合である。天然ガスのスポット取引によるリターンは、エルニーニョのときにプラスとなり、ラニーニャのときにマイナスとなる傾向があると分かった。大きく差が開いたのは2000年以降である。この結果は、直感に反している。エルニーニョは普通、天然ガスの需要が最も高くなる冬の北米に暖かい天気をもたらすからだ。1990年代、先ほど述べたように1997~98年のエルニーニョと1998~2001年のラニーニャの事例があったにもかかわらず、天然ガスのスポット価格は、エルニーニョ期とラニーニャ期と全体的に、かなり似たような動きをみせた。2つの期間で乖離が始まったのは2000年以降である。

図 4.

天然ガスの値動きに一致して大きな乖離が起きているようにみえるのはなぜか。例えば、穏やかなエルニーニョが発生した2002年2月~2005年9月、天然ガスは値を上げている(スポットで558%高)。もっとも、その理由は天候とほとんど関係のないものだった。この2002年2月~2005年9月に、コモディティ(商品)が総じて大相場となったのだ。WTI原油が228%高、金が65%高、高品位銅が149%高である。この現象に拍車をかけた要因として、天然ガスを含む多くのコモディティで供給の伸びが抑えられたこと、米ドル安、2001年の景気後退を受けて平時よりも低くなった米金利、2003年初めからの米国の景気回復、新興国市場の力強い成長などが挙げられる。

この穏やかなエルニーニョの終盤となる2005年8月、ハリケーン「カトリーナ」が米国を襲い、天然ガスの価格は急騰した。メキシコ湾岸地区の供給が大きく混乱したからだ。ここで注目すべき研究がある。NOAA(米海洋大気庁)が米国に上陸したハリケーンとエルニーニョによる影響について調べたところ、統計的にみてエルニーニョ期にハリケーンが上陸する可能性はラニーニャ期よりも低いというのだ(Bove, O’Brien, Elsner, Landsea and Nin: http://www.aoml.noaa.gov/hrd/Landsea/elnino/)。したがって、2002~05年のエルニーニョの末期に起きたカトリーナによる価格上昇もまた偶然といえるだろう。

同様に、2006年のラニーニャ期に起きたスポット価格の下落もまた、天候とほとんど関係がなさそうだ。穏やかなラニーニャが2005年10月に始まったと同時に、湾岸地区の生産が平時に戻り、天然ガス価格が下落した。このとき生じた買いポジションの巻き戻しが、ヘッジファンドのアマランス・アドバイザーズ社の破綻と清算を招いた。同社は、天然ガス市場で大量の買い玉を抱えており、清算が完了したのは2006年9月だった。

次にラニーニャが優勢になったのは、2007年3月から2009年4月にかけてである。金融危機が急激に伝播していったときだ。天然ガスのスポット価格は、2007年3月から2008年7月初旬にかけて58%上昇したものの、続く2008年7月初旬から2009年4月までに76%下落した。原油相場の動きを反映したからだ。結局「金融危機のラニーニャ期」は58%の下落である。それは天候パターンの変化というよりも、米国内の需要が景気後退にともない軟化したことのほうが、はるかに大きい要因であった。

天然ガスのスポット価格は、エルニーニョ期に累積659%のプラス成績を上げ、ラニーニャ期に累積75%のマイナス成績を出している。興味深い数字といえるが、以上の理由から、あまり信頼に足るものではないだろう。

見通しと結論

NOAA指数は5月基準値よりも0.9度(摂氏)高い水準で上昇した。6月には、さらに上昇していそうだ。エルニーニョ期の始まりを示唆しており、秋冬はさらに激しさを増していく可能性がある。これまでエルニーニョは、かなり高い信頼度で米南部に冷たく湿った天気をもたらし、低気圧の経路を南下させてきた。一方、米北部の秋冬の天気には信頼できるほどの衝撃をもたらしていない。とはいえ、秋に突然の寒波が生じ、天然ガスが値を上げる可能性がないわけではない。同様に、米北部の冬が平年よりも暖かくなると、天然ガスの需要、そして価格の低下が導かれる可能性もある。

長い目でみると、データから明らかなように、エルニーニョとラニーニャは天然ガス価格の大きな変動要因とはいえない。しかし、1997~98年にあったような強烈なエルニーニョは別だ。その場合、米国の天候パターンが乱れ、天然ガス市場に激しい値動きを生む可能性が大いにある。そして同じことが、その先のラニーニャ期にもいえる。例えば、1997~98年のエルニーニョの後にはラニーニャが3年続いているのだ。

 

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