中国:市場改革の課題とインセンティブ

  • 13 May 2015
  • By Bluford Putnam

長期的、そして短期的な構造要因を背景とした実質GDPの減速が当局の政策運営の課題となるなか、中国経済は失速を続けている。一方で、もちろん当局がそういう判断をすればだが、市場での適切な評価を反映した人民元が構造改革の促進機会を拡大するなど、現在の状況は好機と捉えることも出来る。

長期的要因: 収益率の低下、高齢化、都市部への人口移動

巨額のインフラ投資を通じ、これまでにないスピードで近代化を推し進めてきた中国は(図1)、ここ30年程、10%の実質GDP成長を続けてきた。しかしながら、現状はその結果として、追加的なインフラ投資による収益性が低下する状況となっている。これまでの様に、新規プロジェクトに対して銀行貸出しを引差し向けるという手法では、もはや成長スピードを維持できない状況なのである。

また、「一人っ子政策」の当然の結果として、中国の人口が高齢化していることも政策運営上の課題となっている。中国政府は既に、インフラ投資や輸出から内需主導への成長に移行することを示唆しているが、人口構成の変化から、この方針についても課題が指摘されている。65歳以上の年齢層は、より若年の層よりも消費性向が低いからである。次の10年で、中国国民の平均年齢は40歳代に上昇し、退職者の人口比率が20%を超えることを考慮すると、国民一人当たりの消費が低下するのを免れるのは困難な状況となっている。

図1

中国当局は依然として、自国通貨の取引を限定的な範囲に管理しようとしているし、実際には範囲を拡大しながら、管理に成功してもいる。ただ、現状で、当局が人民元の取引を自由化したとしても、大きな事態にはならないだろう。

「一人っ子政策」の結果としてさらに指摘されるのは、全体の人口と労働人口の拡大が止まったことである。中国では、労働力の逼迫に対してこれまで、地方から都市部への大規模な人口移動で対応してきた。全体の人口が増えない中で、都市部の人口は3%程度の増加を続けてきたのである。実質GDPの成長を支えてきたこの人口移動は、次の10年で都市部の人口比率が全体の70%を下回ることで、減少傾向が始まると考えられている。都市部への人口移動がなくなれば、中国経済はその前提としている年率3%ほどのGDP成長率を失うことになる。

人民元の上昇、輸出、そして市場改革のインセンティブ

短期的な観点からは、人民元の上昇、そしてそれによる中国の輸出への影響が政策課題となる。対米ドルでの取引範囲(レンジ)が決められている人民元は、結果として、米ドルが上昇すれば、対円、対ユーロ、さらに多くの新興国通貨に対して上昇する。米国の多国籍企業も、こうした米ドル高からの影響を多少受けることになるが、為替リスクがヘッジされていることに加えて、こうした企業の米国外でのオペレーションは膨大な規模ともなっている。一方で、人民元の上昇によって中国の輸出企業は、大きな影響を受けることになる。

実際には、ここ10年で、市場と人民元の改革は中国にとって差し迫った課題ともなっている。インフラ投資と輸出主導による成長が続いていた2005年、もしも中国政府が人民元の取引を自由化したとしたら、中国通貨は対米ドルで30%から40%、もしかするとそれ以上の上昇となったかもしれない。こうした人民元の上昇は中国の経済成長モデルに支障をきたしたであろうし、中国経済を深刻な景気後退に落とし込んだかもしれない。もちろん、世界経済もその影響から逃れることは出来なかっただろう。

図2

そして10年後の2015年、人民元は対ドルで一時期よりも30%ほどの上昇となっており(図2)、対円、対ユーロでの上昇率はそれよりも高いものとなっている。もちろん、中国当局は依然として、自国通貨の取引を限定的な範囲に管理しようとしているし、実際には範囲を拡大しながら、管理に成功してもいる。ただ、現状で、当局が人民元の取引を自由化したとしても、大きな事態にはならないだろう。実際には、中国経済の減速、中国企業や富裕層による旺盛な海外投資意欲などを反映して、自由化された人民元は下落する可能性が高い。ただこれは、人民元の米ドル連動制を放棄するなど、市場改革をより早いスピードで進展させることで、ある程度の自国通貨安を誘導できるということであり、中国国内の輸出企業が最も必要としている支援を提供することにもなる。換言すれば、2015年の時点では、市場改革によって、中国は長期的な経済成長の減速スピードを遅らせることが可能なのである。

 

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