“Brexit”は英国よりもEUにとっての打撃が大きい?

  • 13 Apr 2016
  • By Erik Norland

Erik Norland(CME Groupシニアエコノミスト兼エグゼクティブディレクター)

英国とEUのうち、Brexit(英国のEU離脱)をより心配すべきなのはどちらか? 通貨オプションの市場動向を見るかぎり、その答えは英国である。最近では、英ポンド/米ドルのオプション取引におけるインプライド・ボラティリティ(IV)が、ユーロ/米ドルのオプションのIVを大幅に上回るという異例の動きを見せている(満期まで90日間のアット・ザ・マネーのオプションを比較)。オプション市場では、この5年間、英ポンドのIVがユーロのIVを上回ったことはほとんどなく、同じ水準に達したケースも数回程度しかない(図1)。

英国では、欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票が6月23日に実施される。これに伴い、英国の状況や、仮に離脱派が勝利した場合のリスクなどがBrexitの主な話題となっている。その一方で、ユーロやEUへのリスクについては、十分な関心が向けられていないようだ。

英国に関しては、Brexitのリスクが過大評価されている可能性がある。

  • 英国は、共通通貨のユーロやシェンゲン圏(共通VISA圏)に一度も加盟したことがない。
  • ノルウェーとスイスはEU加盟国ではないが、欧州の他地域と深く結びついた商業、工業および金融業を有し、経済的に繁栄している。
  • 英国がEUから離脱したとしても、現状の関係を維持するための条約の締結に向けて、両者が協議を行うと予想される。
ただし、Brexitが英国にまったくリスクを及ぼさないというわけではない。EUからの離脱により、英国はブリュッセルでの地位を失うことに加えて、貿易の条件や、英国に在住する数百万人のEU諸国の市民への対応など、勘案すべき問題を多く抱えることになる。また、英国の離脱がスコットランドの独立運動への追い風となり、それが英ポンドのボラティリティを一層高める可能性もある。

図1:英ポンド・オプションのインプライド・ボラティリティ(IV)は、通常、ユーロ・オプションのIVよりも低い

満期まで90日間のオプションのIV(%)

とはいえ、Brexitによるリスクは、EU(特にユーロ圏)にとっての方が遥かに大きいかもしれない。英国が離脱できるとなれば、EUへの参加は永久的ではないと受け止められ、他のEU加盟国も後に続く可能性が出てくる。その最初の候補は、困難な緊縮財政政策の重圧により、経済が再び縮小に向かっているギリシャだ。ギリシャのアレクシス・チプラス首相は最近、同国の経済をデフォルトに追いやろうとしているとしてIMF(国際通貨基金)を非難したが、IMFはその主張を否定した。確実に言えるのは、ギリシャの金融危機はまったく解決していないということだ。ギリシャの危機が再燃した場合は、ユーロのボラティリティが高まる可能性がある。その一方で、英国がEUを離脱するか否かに関わらず、ギリシャ問題は英ポンドにほとんど影響を与えないと考えられる。

国民投票で英国の離脱が決まれば、将来的には他の国も同様の考えを抱くかもしれない。ドイツではユーロ懐疑論を主張する極右政党が急速に支持を集め、オーストリア、デンマーク、フランス、オランダ、そしてスウェーデンにおいても、同様の政治理念を持つ既成政党が勢力を伸ばしている。また、スペインでも政治の分裂が起こっている。こうした状況は、移民問題によって失われた共通VISA圏への支持を取り戻すことや、欧州で経済の減速とマイナスの短期金利を生み出している巨額の債務問題に対処する上で、決してプラスにはならないだろう。

仮に“EU残留派”が勝利した場合は、ユーロ/米ドルのオプションIVよりも、英ポンド/米ドルのオプションIVがより大きく下落すると考えられる。“EU離脱派”が勝利した場合は、ユーロ/米ドルのオプションに比べて、英ポンド/米ドルのオプションIVが短期的に急上昇するかもしれないが、長期的な見通しは不透明だ。離脱派が勝利すれば、最終的にはユーロのボラティリティが英ポンドと同等、またはそれ以上に上昇する可能性もある。

 

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著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミストです。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信しています。

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