EU離脱を選択したUK国民投票: その影響と意味するところ

  • 24 Jun 2016
  • By Erik Norland

Erik Norland(CMEグループ・シニアエコノミスト & エグゼクティブディレクター)

EU離脱を支持した英国民投票の歴史的結果を受けた市場は、最初の18時間、事前の予想通りの反応を示したと言える。欧州の株式市場は当初、5%から10%の下げを記録し、その後、下げ幅を縮小する展開になった。為替市場では、英ポンドが8%の下落となり、(日本円を除いて)その他の通貨も対米ドルで下落した。一方で、金価格は1300ドル超えとなり、米国10年債の利回りは、2013年以来の低水準である、1.38%を目指す展開となった。  

次の段階: 冷静さを取り戻す市場

オプション市場のデータからは、金融資産の多くにおいて、ボラティリティー上昇のピークは過ぎたであろうことが示唆されている。ただ、英国民が示したEU離脱の判断は、英国やEUの将来、そして両者の関係など、今後について多くの不確実さを残したことにもなる。残留ではなく、EU「離脱」が選択されたことは、為替や株式などが、構造的な高ボラティリティーの市場環境に移行した、とも考えられる。

次に起こり得ること:

  1. 英ポンド/ユーロ(GBPEUR)の為替レートについて市場は、投資家に再評価を求めることになる。例えば、英ポンドはユーロに対して下落すべきだったのだろうか?英国の失業率は低水準だし、インフレ率は比較的高い。また、英国の生産ギャップは、ユーロ圏のそれよりも小さいのである。さらに、金融危機以降のデレベレッジについては、ユーロ圏よりも英国の方が進んでいるという事実もある。今回の国民投票、また、その結果として英国がEUから離脱する可能性など、市場がこれまで対応してきた不確実性の条件が無かったと仮定すれば、中央銀行のイングランド銀行(BOE)は政策金利の引き上げに傾いていたはずだし、英ポンドは上昇していたと考えられる。

    一方で、共通通貨のユーロにとって、今回の国民投票の結果は取返しのつかない大惨事である。英国の例はEUからの離脱が可能であることを示したのであり、これに続こうとする動きがその他の加盟国で誘発される可能性を高めたと言える。EUを離脱する可能性がある国々は、短期的には、経済的な問題を抱えた(もちろん、離脱の可能性もあり得るが)ギリシャなどではなく、オランダの様に、経済が比較的安定した加盟国であるとされている。また、共通通貨であるユーロを使ってはいないものの、デンマークやスウェーデンなどでも、EU離脱を模索する可能性が高まる。

    一方で、英ポンドが今回のニュースを受けて付けに行った安値を再度、試しに行く可能性には注意を要する。過去の実績から言って相場には、直近の安値を再度、試す傾向があるからである。その安値は、英ポンド=1.32米ドルの水準となっている。
  2. 金利動向: 準備制度理事会(FRB)は、年内の利上げを見送ると考えられる。ただ、FF金利の先物は、来年の利上げについても見送りに偏重した見通しを示唆している。これは、合理的だろうか?英国の国民投票でEU離脱が支持されたことは、米国経済にどの様な具体的影響を及ぼすと言うのだろうか?これについては、懐疑的にならざるを得ない。もしも、S&P500指数が1日に3%から4%下げたことを理由に利上げを見送るのなら、FRBは今後も追加利上げを実行できないだろう。そして、S&P指数が反発し、今後発表される6月分の雇用統計がしっかりした内容だった場合(そして、その可能性は高い)、米国の金利市場は、年内ではないにしても、2017年の利上げの可能性を再び織り込み始める可能性が高い。米国10年債の利回りは1.38%の(抵抗)水準で下げ止まり、夏相場で(反落)上昇する可能性がある。
  3. オプション市場のデータで見ると、予想(インプライド)ボラティリティーは上昇のピークを付けつつあり、金融資産全体としては、RV (リアライズド・ボラティリティー)はピークを付けた、または上昇期を終えていることが示唆されている。ただ、共通通貨ユーロに関しては、予想ボラティリティーが本来のリスクを反映していない可能性も指摘しておきたい。
  4. 商品: 商品価格について、多くの弱気材料が存在する。原油の在庫は季節調整済みベースで引き続き増加しているし、ラニーニャは一般的に農産物市場の弱気材料であり、中国景気の継続的な減速は工業用素材にとっての悪材料、等々である。ただ、米ドルの急上昇を背景とした直近の下落については当面、それが継続する可能性は低いと見られる。それぞれ市場の通常の動きに戻る前に、商品価格は当面のサポート(価格の支持水準)を見付けると予想される。
  5. 金: 商品市場で、(銀やプラチナなどと同様に)金は例外的な上昇を見せた。だが、英国のEU離脱は、本当に金の買い材料なのだろうか?EU離脱への初期反応として金市場は上昇したが、筆者個人の所見では、1300ドル台での金買いは、あまり好ましいと思えない。この価格水準では利益幅が拡大することから、鉱山会社の多くで産出活動の活発化が喚起されると思えるからである。結果、今年後半から来年にかけて供給量は増加し、市場は下落を招くことになると考えられる。さらに、米国金利への上昇期待が高まれば、金市場は一段の下落圧力を受けることになる。反対に、EUの崩壊懸念が高まった場合、マイナス圏にある政策金利を、欧州中銀(ECB)はさらに引き下げるかもしれない。このシナリオは、金価格の上昇材料となる。ただ、ECBが政策金利のさらなる引き下げをためらった場合、市場の強気派が擁護する金の卵はその輝きを失い、朝食の食材として供されるだけのことになることも考えられる。

本資料に掲載の情報は、あくまで情報提供を目的としたものです。助言を意図したものではなく、また助言と解釈しないでください。本資料に記載されて いる見解は、筆者個人のものです。必ずしも CME グループならびにその関連機関の見解ではありません。本資料およびその情報を投資助言も しくは実際に市場で経験した結果として受け取らないようにしてください。

免責事項

先物取引やスワップ取引は、あらゆる投資家に適しているわけではありません。損失のリスクがあります。先物やスワップはレバレッジ投資であり、取引に求められる資金は総代金のごく一部にすぎません。そのため、先物やスワップの建玉に差し入れた当初証拠金を超える損失を被る可能性があります。したがって、生活に支障をきたすことのない、損失を許容できる資金で運用すべきです。また、一度の取引に全額を投じるようなことは避けてください。すべての取引が利益になるとは期待できません。

本資料に掲載された情報およびすべての資料を、金融商品の売買を提案・勧誘するためのもの、金融に関する助言をするためのもの、取引プラットフォームを構築するためのもの、預託を容易に受けるためのもの、またはあらゆる裁判管轄であらゆる種類の金融商品・金融サービスを提供するためのものと受け取らないようにしてください。本資料に掲載されている情報は、あくまで情報提供を目的としたものです。助言を意図したものではなく、また助言と解釈しないでください。掲載された情報は、特定個人の目的、資産状況または要求を考慮したものではありません。本資料に従って行動する、またはそれに全幅の信頼を置く前に、専門家の適切な助言を受けるようにしてください。

本資料に掲載された情報は「当時」のものです。明示のあるなしにかかわらず、いかなる保証もありません。CME Groupは、いかなる誤謬または脱漏があったとしても、一切の責任を負わないものとします。本資料には、CME Groupもしくはその役員、従業員、代理人が考案、認証、検証したものではない情報、または情報へのリンクが含まれている場合があります。CME Groupでは、そのような情報について一切の責任を負わず、またその正確性や完全性について保証するものではありません。CME Groupは、その情報またはリンク先の提供しているものが第三者の権利を侵害していないと保証しているわけではありません。本資料に外部サイトへのリンクが掲載されていた場合、CME Groupは、いかなる第三者も、あるいはそれらが提供するサービスおよび商品を推薦、推奨、承認、保証、紹介しているわけではありません。

CME Groupと「芝商所」は、CME Group, Inc.の商標です。地球儀ロゴ、E-mini、E-micro、Globex、CME、およびChicago Mercantile Exchangeは、Chicago Mercantile Exchange Inc.(CME)の商標です。CBOTおよびChicago Board of Tradeは、Board of Trade of the City of Chicago, Inc.(CBOT)の商標です。ClearportおよびNYMEXは、New York Mercantile Exchange, Inc.(NYMEX)の商標です。本資料は、その所有者から書面による承諾を得ない限り、改変、複製、検索システムへの保存、配信、複写、配布等による使用が禁止されています。

Dow Jonesは、Dow Jones Company, Inc.の商標です。その他すべての商標が、各所有者の資産となります。

本資料にある規則・要綱等に関するすべての記述は、CME、CBOTおよびNYMEXの公式規則に準拠するものであり、それらの規則が優先されます。 取引要綱に関する事項はすべて、現行規則を参照するようにしてください。

CME、CBOTおよびNYMEXは、シンガポールでは認定市場運営者として、また香港特別行政区(SAR)では自動取引サービスプロバイダーとして、それぞれ登録されています。ここに掲載した情報は、日本の金融商品取引法(法令番号:昭和二十三年法律二十五号およびその改正)に規定された外国金融商品市場に、もしくは外国金融商品市場での取引に向けられた清算サービスに、直接アクセスするためのものではないという認識で提供しています。CME Europe Limitedは、香港、シンガポール、日本を含むアジアのあらゆる裁判管轄で、あらゆる種類の金融サービスを提供するための登録または認可を受けていませんし、また提供してもいません。CME Groupには、中華人民共和国もしくは台湾で、あらゆる種類の金融サービスを提供するための登録または認可を受けている関連機関はありませんし、また提供してもいません。本資料は、韓国では金融投資サービスおよび資本市場法第9条5項並びに関連規則で、またオーストラリアでは2001年会社法(連邦法)並びに関連規則で、それぞれ定義されている「プロ投資家」だけに配布されるものであり、したがってその頒布には制限があります。

Copyright © 2016 CME Group and芝商所. All rights reserved.

著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミストです。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信しています。

Erik Norland(CMEグループ エグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト)によるレポートの一覧は、こちらでご覧いただけます。