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共和党の野心的財政政策が債務上限に直面する ‐ 3月の凶事への警告

2017年の春、税制改革やインフラ投資、そして国家債務などの問題は、ワシントンの政治舞台で中央に躍り出る可能性が高い。そして3月には、2015年末に、選挙の年となる翌年の議会での承認を避けるため、一時的に棚上げされた連邦債務が再び上限に達する。こうした3月の凶事には、注意が必要である。 

連邦債務が20兆1000億ドルに達した時点で必要となる債務上限の引き上げ措置は、緊急的な対応を行使したとしても、第2四半期中には債務がこの上限に達し、その引き上げが必要となる。ホワイトハウスに議会の上院と下院、ワシントンの全てを共和党が抑えている現状から、上限引き上げの問題は克服されると思われる。実際、共和党政府はその監視下で、政府機関に閉鎖の醜態を演じさせることがないよう、完璧を期すと考えられる。しかしながら、ここでの対応は、次の4年間、またはそれ以上の期間を通じ、この問題の前提となる財政政策の原理原則に関して、株式や債券などの市場に強力な示唆を提供することになる。

米国債市場は、膨大な新規発行やインフレ上昇の可能性、さらにFRB(米国中銀)による短期金利引き上げに備える方向で動いてきた。一方で米株は、法人税引き下げや規制緩和の可能性、さらに財政支出によるインフラ投資への期待を、市場動向の主要背景としてきた。従って、債務上限引き上げという問題への取り組みを前に、市場には既に多くの前提が存在しているのである。

選択肢

債務上限の引き上げに関しては、少なくとも4つの選択肢がある。a)単に廃案とする、そして、b)単に引き上げる、というのが最初の2つである。

1917年にまで遡る債務上限の規定は当初、第1次世界大戦における米国の財政支出を容易にするためのものだった。当時の憲法判断では、発行される国債は全て、個々に議会の承認を必要とするとされていたのである。そこで、発行できる債券総額に上限を設け、この上限に達しない限りにおいて、財務省には調達の裁量が与えることとされた。現状、議会が個々の国債発行を承認するという、第1次大戦時のプロセスに戻ることが望まれているとは考え難い。従って、廃案という選択肢は現実性に乏しい。

同様に、債務上限は、政府支出の暴走に歯止めをかけるための象徴的な措置であるため、この上限を単に引き上げるというのは、政治的リスクが高いと考えられる。政権と議会を制しているのが共和党である以上、上限引き上げは過去の遺物であるとする恒例の議論が繰り返されるかもしれない。ただ、財政規律に対する厳しいスタンスは共和党の専売特許、というわけでもない。保守的な地元の意見を反映し、常に債務上限の引き上げに反対する議員もいる。実際、2016年の議会選挙では、こうした地域保守主義の連帯が明白に反映され、共和党は勝利を収めたのである。そして、こうした動きには、より小さな政府という強固なテーマが根底に存在する。従って、共和党が多数派を占める議会にとって、今回の債務上限という問題への対応が、こうした期待に対する最初の試金石となる。そこで、ここでは、財政政策と債務上限を組み合わせる、よりクリエイティブな代替え案を考察してみたい。

a)、b) に続いて、第3の選択肢は、予算が承認され、法制化された場合、これに合わせて債務上限が自動的に引き上げられるプロセスを法制化することである。債務上限の規定では、議会が支出案件を承認し、その資金を調達するための債券発行に法的な根拠を与える流れになっている。ただ、予算自体が債務上限を超えている場合、この方法では財政政策に一貫性を欠くことにもなる。かつては、この一貫性の欠如に対応する「ジェファート・ルール」があった。下院多数派リーダーだったリチャード・ジェファート議員(民主党、ミズーリ州選出)の名を冠するこのルールでは、翌年度の予算を議会が承認すると同時に、債務上限が引き上げられた。上限引き上げについて、議会は個別に採決する必要がなかったのである。その後、1995年に共和党が下院の多数派となった際、このルールは廃案となった。以来、共和党が下院の多数派となったときは特に、短期間ではあるものの、連邦政府機関閉鎖などの混乱を引き起こすなど、債務上限引き上げに関しては、何度もギリギリの議論が繰り返されてきた。それでも、「ジェファート・ルール」の復活を望むことは現状、難しいと考えられる。

第4の選択肢は、債上限を名目GDPに連動させるという、興味深い方法である。この方法では、債務額の上限を名目GDPに対する割合(%)に設定し、将来的に、その割合を低下させていくこととされる。現状、連邦債務は名目GDPの105%程度となっているので、財政赤字が今後数年は年間でGDPの5%程度になるとして、例えば2020年までの割合を120%に設定したとする。こうした後で、共和党としては、例えば2030年までに80%とする等の長期的目標を掲げ、対GDPでの債務比率低下をアピールすることが出来る。

連邦債務と名目GDPを関連付けるという考え方は、大規模な減税を求めている人々から直感的に支持される可能性も高い。個人や法人の所得に対する最高税率の引き下げは、共和党の主要公約だからだ。限界税率引き下げの議論は、税率の引き下げによって実質GDPが加速するので、長期的には、この引き下げ分が賄われるというロジックをその根拠としている。実際、共和党の2017年度予算案ではGDP成長率で3.5%、2018年‐2014年ではさらに高い成長率を見込むであろうと考えられている。こうした水準の成長率を背景とすることで、減税分は賄われ、債務の対GDP比率が継続的に低下するシナリオを描くことが可能となる。

税制改革、GDP成長、連邦債務:レーガン政権の実験

1980年代のレーガン政権では、70%から28%まで、限界税率が2度にわたって、大幅に引き下げられた。また、税制の簡素化に向けた超党派による重要な進展もあった。今回の共和党政府でも、当時と同様に、減税策への支持拡大が期待できる。

レーガン政権が進めた供給サイド経済政策は、限界税率の引き下げが経済成長を促進し、結果として税収を増加させ、財政赤字を縮小させるとして、アーサー・ラッファー教授が一般化した理論を背景にしていた。「ラッファー曲線」と呼ばれるこの理論には、直感的に、非常に魅力のあるロジックがある。

一方で、この理論の難点は、そうならなければ連邦債務の水準が一段と高まる、という事実である。そして「ラッファー曲線」は、単純で、抜け道や特別な控除が存在しない税制を、絶対的な前提としていたのである。従って、複雑な税法や非現実的な限界税率によって、見込まれる成長率は大きく影響される。そして、今のところ、現政府の減税政策に関する詳細は不明確なものとなっている。しかし、税制の抜け道を維持することに関して、利権団体が狡猾であることは歴史的にも証明されている。その意味では、一段の成長を見込む前に、税率の引き下げ幅だけではなく、意味ある税制改革であることが必要とされているのである。

成長拡大予測に関する第2の懸念は、そのスタート・ラインである。レーガン政権が誕生した1981年、個人所得の限界税率は70%だった。前述した様に、この税率は2度の引き下げを経て28%まで低下する。実際、大幅な限界税率の引き下げとなった。また、当時のデータは、参考資料として一見に値する。例えば、連邦政府の税収は平均で、1983年の対GDP比17.73%から、1998年には同18.33%まで増大している。連邦政府は、税率引き下げで対GDP比の税収を増大させたのである。しかしながら、税収額は財政赤字を賄うには遠く及ばず、実質GDPが堅調な拡大を見せる一方で、連邦債務も1991年の対GDP比31%から、レーガン大統領が退任した1989年には、同50%を若干下回る水準まで増大した。一方、現状については、実質GDPで一段の成長を見込むのは無理があると考えられる。また、税率の引き下げが富裕層に偏重するとしたら、消費ではなく貯蓄を拡大させる要因となる可能性が高い。さらに、限界税率は今回、70%からではなく、40%ほどから引き下げられることになる。レーガン政権当時に比べて、引き下げ幅は限定的なものとなる。最後に、税制における大規模な簡素化が実行されるかは現状、必ずしも明確ではない。

減税の有無に係わらず、先々の経済成長については懸念も多い。レーガン政権当時には、1980年‐1982年の大幅な景気後退の後、経済は好調なリバウンドを見せていた。減税の有無に係わらず、このリバウンドは実現したと考えられる。現状、失業率が5%を下回るなか、緩慢ながら確固とした経済成長を手渡された共和党は、一方で、高齢化が進む社会環境や鈍い拡大を続ける労働人口、そして巨額の学生ローンを抱え、消費に消極的なミレニアム世代という逆風要素も受け継いでいる。多少は、減税による景気押し上げ効果を期待できるかもしれない。しかし、追加的な景気拡大の可能性を考えるとき、現状の景気サイクルと人口構成の変化は、注意を要する抑制材料となる。

市場の反応?

我々の分析では、共和党内のどの派閥であったとしても、債務上限に関して妥協したりすれば、株式や債券市場を困惑させることになる、というのが結論である。2016年の大統領選挙以来、株式市場は力強い上昇を続けている。一方で、債券利回りは急上昇を見せている。また、市場ボラティリティーは、株式で非常な低水準となる一方、債券市場では上昇している。こうした市場傾向は、a) 大幅減税、b) 後退することなく、強く、継続的な経済成長、c) 連邦政府の支出に対する強い抑制スタンス、などが同時に進行した場合、続くと考えられる。一方で、こうした前提が崩れるなら、11月の大統領選以来見られていた様な水準をはるかに超えて市場ボラティリティーが上昇し、株式市場にとって2017年は難しい年となる可能性が高くなる。3月の凶事に注意すること、である。


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著者について

Bluford “Blu” Putnam(ブルフォード“ブル”パットナム)CMEグループ・マネージング・ディレクター兼チーフ・エコノミスト。中銀の政策分析・投資調査・ポートフォリオ管理を中心に金融業界で35年を超える経験を持つ。2011年5月より現職。世界経済情勢に関する情報発信で中心的な役割を担う。

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著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信する。

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