ユーロ圏と米国の金利:非対称リスクは?

  • 17 Feb 2016
  • By Erik Norland

Erik Norland(CME Groupシニアエコノミスト兼エグゼクティブディレクター)

欧州中央銀行(ECB)は積極的に国債などの買い入れプログラムを速やかに継続していることから、BBB+格のイタリア国債の利回りでさえも米国債のそれを大きく下回っている。ドイツでは、AAA格の債券利回りは、イールドカーブの8年地点近辺までマイナスになっている(図表1)。米連邦準備制度理事会(FRB)による追加利上げ観測が最近後退するなか、米国の利回りは、短期債がドイツよりも80ベーシスポイント(bp)、長期債は約175bpほど高い水準で推移している(図表2)。米国とユーロ圏で大きな利回り格差が生じているため、次のような疑問を浮上する。ユーロ圏と米国の債券市場の見通しはどうなっているのか、大西洋の両側、つまり米欧の利回りが非対称になるリスクがあるのか。

 

図表1:米国の利回りはイタリアのBBB+格債でさえも上回っている

図表2:FRBによる追加利上げ観測が後退するなか、米国の利回りはユーロ圏の利回りを上回っている

債券利回りは基本的に以下の2つの部分に分解することができる。

  1. 債券利回りの変動に起因する日々の価格の変動。
  2. 金利のキャリーおよびロールダウンの累積効果:将来の短期金利がフォワードカーブに織り込まれた水準まで上昇した場合、キャリーはゼロになる。しかし、フォワードカーブに織り込まれた金利の展開が実現されなかった場合には、キャリーは、以下の2つの源泉、つまり(A)短期資金調達コストを超えるクーポン収入および(B)(時間の経過に伴う)債券価格の上昇によるロールダウン効果から生じることになる。

価格リスクとリターンの非対称性:価格およびキャリー効果を考慮してユーロ圏と米国の債券を比較するには、したがってかなり容易である。価格効果に関しては、投資家が自問すべきことは以下の通りである。

  • ドイツ2年国債の利回りが0.5%上昇して0%になる可能性が高いか、または更に0.5%低下してマイナス1%に達する可能性が高いか?
  • 米2年国債は0.76%から0.5%低下して0.26%になる可能性が高いか、または0.5%上昇して1.26%に達する可能性はより高いか?
  • ドイツと米国の2年国債の投資家が直面するリスクは、等しく非対称であるか?

同様の疑問は、満期の長い債券についても自問できるだろう。例えば、ドイツ5年国債(BOBL)は、マイナス0.3%からマイナス0.8%に低下する可能性が高いか、または0.2%まで上昇する可能性が高いか? 米5年国債は1.27%から0.77%に低下する可能性が高いか、または1.77%まで上昇する可能性は高いか?

ドイツの金利が極端に低水準にとどまっていることを踏まえると、ドイツの投資家が直面するリスクは対称的ではない。ドイツでは、利回りが0.5%低下するよりも0.5%上昇する可能性の方が大きいかもしれない。

米国の方が判断は難しい。現在、フェデラルファンド金利(FF金利)先物には、追加利上げがほぼ織り込まれておらず(図表2)、短期金利が一段と低下するには、米国市場において、FRBが現在から2017年末までに既に織り込み済みの1回の利上げを断念する、FRBが利下げにより2015年12月の利上げの帳消しを実際に熟慮するとの見方が出現し始める必要があろう。

 

米国労働市場が大幅に悪化した場合のみ、FRBが利下げに転じる可能性があると予想しており、今のところこうした状況は起こっていない。さしあたり、雇用者数の伸びは1ヵ月当たり20万人前後(または就業者数の約1.9%の伸び)を維持している。時間当たり平均賃金の2.5%の伸びと平均労働時間数の小幅な減少を踏まえると、総労働所得の伸び率は約4%となり、企業の設備投資が原油価格の下落のために落ち込み、企業利益の対GDP比が低下し始めたとしても、個人消費を支えるには十分と思われる。ただし、雇用者数の伸びの継続が不可欠になろう。

米国株式市場の最近の調整は、FRBによる利上げ観測が後退した主な要因のようだ。今回の調整の要因は、ほぼエネルギー株である(図表4)。

 

図表3:総労働所得は依然安定した伸びをみせているが、減少に転じればFRBは利下げに追い込まれかねない

米国で原油価格が続落しても、エネルギー株を除けばこれが投資家にとって悪材料とは言い切れず、また将来の利上げが先送りされて市場で最近織り込まれた利上げ幅にとどまると明らかになっているわけでもない。原油価格の大幅下落に起因する企業の設備投資の減少が投資家の焦点となっているとはいえ、原油安は消費者にとっては喜ばしいニュースであることが見過ごされやすい。米石油セクターならびに原油輸出国ともに設備投資への打撃は、むしろすぐに実感されやすい。対称的に、消費者そして航空会社やトラック輸送会社などの他のエネルギー依存企業の利益に対する効果が現れるのは、遅くなる傾向にある。

図表4:エネルギー株は市場全般を押し下げ、FRBの利上げ観測は後退

そのため、米国金利は、特に株式市場の売りが止まり反発すれば、リスクがやや非対称に上向くと考えがちである。ただ、債券利回りの今後の方向性に関する非対称リスクは、米国よりも欧州の方が大きいように思える。ECBはいつまでも量的緩和(QE)プログラムを継続することはなく、米国で生じた2013年の「テーパータントラム(量的緩和縮小の示唆による市場混乱)」は、ECBがある時点でQEプログラムの終了を決定すれば、欧州の利回りがどうなってしまうのかを示す教訓である。当時のベン・バーナンキ議長が、FRBはQEプログラムを縮小していずれ終了させることを考慮していると発表した2013年5月には、米国利回りは急伸して10年債利回りはその後4ヶ月で1.30%上昇した(図表5)。

図表5:2013年5月の発表後に生じたテーパータントラムにより米国の利回りが急伸

欧州に関するあらゆる暗い見通しに対して、以下のような理由から楽観的になっている。

  1. ECBは、ユーロ圏の中核国と周辺国との間のスプレッド縮小にかなり成功している。
  2. 金利の全体的な水準は極めて低い。
  3. ユーロは、対米ドルで弱含んでおり、やや競争優位性が増している。
  4. 原油価格は低水準であり、域内のいずれも原油をほぼ生産していないユーロ圏は、世界で主として原油安の恩恵を受けている地域である。

欧州は、米国よりも景気回復の初期段階にあることは議論の余地はないが、債券利回りの上昇リスクと債券価格の下落リスクがないという意味ではない。債券価格の下落リスクがあり、金利のキャリーとロールダウンがほとんど価値のない少ない効果しかもたらさない場合に、欧州の債券投資家にとって何がより大きな懸念材料になるのだろうか。

金利のキャリーとロールダウン

ドイツとイタリアの国債はこの10年間これまで米国債をアウトパフォームしており、大幅にアウトパフォームすることも時にはある。しかし、これらのリターンの分解はひときわ困難である。ドイツ国債の投資家のリターンの大半は、利回り低下に起因する価格上昇の結果として生じている。図表5からわかるように、ドイツの利回りは、2010年の始点ではかなり類似していたのに米国利回りよりも大幅に低下している。対称的に、かなりイールドカーブがスティープ化している米国は、ドイツよりもキャリーとロールダウンの効果によりかなり大きな利益が生じている。

今後について投資家にとっての問題はこれである。キャリーとロールダウンはこれまで、債券価格の上昇よりも債券のリターンを生み出す信頼できる源泉であった。債券価格が上昇するのは、利回りが低下したときのみであり、特に既に超低水準で推移する欧州では、利回りが更に低下する保証はない。おそらくECBが日銀やスウェーデン中央銀行に追随して金利のマイナス幅を大きくするとの見方をとり、更なる低下を心に描くこともできよう。しかし、マイナス金利の試みから生じた当初の結果は、望みが持てるものではない。

図表6から図表19は、ドイツと米国の2年物、5年物、10年物、30年物の国債先物のパフォーマンスの比較と分析を示したものである。また、イタリア10年債先物に関して2つのチャートも掲載しており、これはソブリン債のデフォルトリスクと信用リスクをヘッジするための重要な手段となる。

 

図表6:ドイツ2年債は2010年以降、米2年債をアウトパフォーム

図表7:ドイツ2年国債のリターンは利回り低下/価格上昇が大半

図表8:米2年債先物のリターンの大半はキャリーとロールダウンの蓄積効果による

図表9:ドイツ5年債先物は2010年から米5年債をアウトパフォームしている

図表10:ドイツ5年債(BOBL)先物のリターンは利回り低下/金利上昇が大半

図表11:米5年債先物のリターンの大半はキャリーとロールダウンの累積効果による

図表12:ドイツ国債も10年債をアウトパフォーム

図表13:独10年債先物のリターンは利回り低下/価格上昇が大半

図表14:米10年債先物のリターンの大半はキャリーとロールダウンの累積効果による

図表15:イタリア10年債先物は2012年のECBによるイタリア国債支援後に大幅にアウトパフォーム

図表16:イタリア国債のキャリー効果によるリターンはイールドカーブのフラット化により減速、大幅な信用リスクを伴っている

図表17:ドイツ長期債先物は米国をアウトパフォーム。ただし、今後は不透明である

図表18:BUXLのアウトパフォームは利回り低下が要因

図表19:利回り低下は米30年債を下支えしたが、リターンではキャリーはより重要な役割を果たしている。

結論:キャリーとロールダウンの見通しは、ドイツやイタリアよりも米国の方がかなり明るい。さらに、米国債の価格リスクも、ドイツやイタリアほど非対称にはならないかもしれない。そのため、米国は景気回復の段階が一歩進んでいるなか、米国債は欧州の国債をアンダーパフォームするとは思えない。ECBがQEプログラムを終了した場合、FRBがQEプログラムの縮小を発表した2013年のテーパータントラムの発生時に米国債券市場が欧州債券市場をアンダーパフォームしたとき同程度に、ドイツとイタリアの国債は米国債を大幅にアンダーパフォームする可能性がある。

目先については、欧州の根強い物価下落といまだ芳しくない(そして初期段階にある)景気回復を踏まえると、ECBは、国債などの買い入れプログラムの拡大または延長に踏み切る可能性がより高い。そうなれば、既に広がっている米国とユーロ圏の金利差が一段と拡大する余地がある。ただ、QEをいつまでも続けることは不可能である。一方で欧州債券のキャリーとロールダウンの見通しは、控えめに言っても米国債に比べて妙味がない。そのため、2010年代の前半と同様に後半もドイツとイタリアの国債先物が米国債先物をアウトパフォームするにはかなり困難になることが予想される。

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