2015~2016年のエルニーニョを振り返る

  • 19 Jul 2016
  • By Erik Norland

Erik Norland(CMEグループ・シニアエコノミスト & エグゼクティブディレクター)

太平洋で海面水温が平均よりも1度高くなった1年前、強力なエルニーニョが展開する可能性があり、過去のエルニーニョは農産物価格に強い影響を与えたと警告を発した。当社が警告したエルニーニョは、発生しただけではなく、史上最強とされた1997/98 年に匹敵するものとなった。直近のエルニーニョは2015年12月に平均海面水温を平年値から+摂氏2.3度でピークに達し、その後勢力を落とし始めた (図1)。

過去11回のエルニーニョが発生(中部・東部太平洋の海面水温が米国海洋大気局(NOAA)の海洋ニーニョ指数(Oceanic Niño Index)の平年値を摂氏1度上回る)した後の12ヶ月間における市場の反応を対象にした弊社のリサーチからは、以下のようなことが明らかになった。 

  • CMEとCBOTで売買される農産物のスポット価格は、エルニーニョが発生すると上昇する傾向にある。
  • これまで、先物市場は、エルニーニョの影響をほぼ織り込まずに、エルニーニョ期の発生時にさらにコンタンゴ(順ザヤ)に急激に動かなかった。
  • そのため、エルニーニョ期において再投資された先物のリターンは、平均してプラスとなった。
  • エルニーニョの影響を最も大きな受けたのは大豆とトウモロコシであり、一方で小麦、米、畜産物への影響は少なかった。
  • ドルベースで見た場合、極端な価格上昇(1972/73年)から全面的な下落(1997/98年)など、エルニーニョがもたらした影響の結果は多岐にわたった。
  • より強度なエルニーニョは、高いボラティリティを引き起こす傾向にあった
それでは、直近のエルニーニョは、前例にどのように匹敵していたか。第一に、トウモロコシ、大豆、大豆ミール、米、赤身豚肉など多数の商品について、2016年6月のスポット価格平均は、前年同月を上回った。大豆油、小麦、生牛、乳製品などその他の商品価格は、下落した(図2)。

図1:直近のエルニーニョは、1997/98年の強度に匹敵するものとなり、急速に勢力が弱まっている

図2:2015/2016年のエルニーニョによる農産物のスポット価格への影響は強弱まちまち

強力なエルニーニョが発生しつつあると気付いた当社は、2015/16年のエルニーニョが、もう一つの側面、つまり共に新興市場で深刻な危機が生じていたときに発生下という点で、1997/98年に似ている可能性があると警告を発した。1997/98年のエルニーニョ期は1997年6月に始まり、その当時、ドルペッグ制を採用していたタイバーツが暴落して、アジア金融危機が勃発してその影響が世界中に波及し、ついにはロシアの債務危機が発生し、1998年8月にヘッジファンドのロングターム・キャピタル・マネジメントが破綻した。1997/98年のエルニーニョは強度が史上最大であったものの、インフレ調整ベースで農産物のスポット価格が下落した唯一のエルニーニョであった(図3)。さらに、1997年と1998年のコモディティ価格は、原油の大幅下落を含め、全面安の展開となった。 

図3:エルニーニョ発生後の12ヶ月間のインフレ調整後のスポット価格変化

Month El Niño Begins Corn Wheat Soybeans Soybean Oil Soybean Meal Rough Rice Live Cattle Feeder Cattle Lean Hogs Dairy
1: Aug '63 -3.2% -24.0% -3.6%              
2: Jul '65 6.6% 23.2% 19.3%       -5.7%      
3: Jan '69 -3.0% 1.7% -9.8%       -0.9%      
4: Jul '72 58.5% 61.5% 89.8%       25.3% 33.2%    
5: Sep '82 44.9% 11.0% 47.5% 65.4%     -4.8% -13.7%    
6: Nov '86 3.3% -1.6% 8.8% 11.7%     1.7% 16.2% -18.1%  
7: Nov '91 -17.2% -0.7% -3.3% 2.8% -3.0% -31.0% -2.6% 0.0% 1.5%  
8: Dec '94 41.0% 23.1% 22.0% -15.5% 34.0% 32.3% -6.2% -16.1% 27.7%  
9: Jun '97 -10.8% -22.0% -29.2% 9.1% -53.9% -11.0% -0.2% -5.8% -29.5% 11.7%
10: Oct '02 -13.9% -14.8% 27.1% 23.2% 25.1% 61.3% 28.0% 23.8% 28.1% 27.1%
11: Oct '09 37.5% 31.9% 17.7% 25.3% 8.5% -0.6% 13.8% 15.1% 27.1% 21.8%
12: Jun '15 11.3% -9.4% 16.1% -5.7% 21.5% 11.6% -26.7% -44.5% 7.3% -19.1%
Average 13.1% 8.1% 16.9% 17.4% 2.2% 10.2% 4.8% 6.6% 6.1% 20.2%

出所:Bloomberg ProfessionalおよびCMEグループ・エコノミック・リサーチによる計算

明らかに、1997/98年のエルニーニョ期と直近のエルニーニョ期は、共通点が多い。 例を挙げると、2016年6月にスウエスト・テキサス・インターミディエート (WTI)原油価格は、前年同月の水準を平均19%下回った。1997年6月から1998年6月の間、WTIは27%下落した。原油価格の大幅安は、おそらく大豆油価格への下げ圧力の要因であろう。 

図4:トウモロコシは、より順ザヤが強くなり、エルニーニョの影響を織り込んでいないようにみえる。

相違も存在する。2015年6月から今年の6月の間、ブルームバーグ・ドル・スポット指数 は、1%弱上昇した。1997年6月から1998年6月までの間、ドルは、特に新興国通貨に対してかなり大きく上昇した。そのため、1990年代終盤よりも、今回について、スポット価格の伸び悩みをドル高(すなわち外貨安)のせいにするのは難しい。 

直近のエルニーニョ期と過去のエルニーニョ期との間のもう一つの大きな違いは、直近のエルニーニョが発展したときに先物市場が順ザヤに大きく動いたことであり、先物のアウトライトのロングポジションの保有で得られる収益が削減されている。これは、トウモロコシにおいて明白であり、例えばスポット価格は11.3%上昇したが、2015年6月から2016年6月の平均終値を用いると、それを再投資した先物のリターン(期日の10日前に次の限月にロールオーバー)はわずか2.6%にとどまった。小麦先物は、エルニーニョの影響が顕現化しないことを織り込んでいたようにみえる。 スポット価格は9.4%下落し、再投資した先物取引のリターンは18.8%のマイナスとなった。 とはいえ、市場にもエルニーニョの影響が織り込まれていなかったことから、大豆先物は、それほど大きな差を示していない(図4)。大豆価格は、4月、5月、6月初頭に高騰したが、エルニーニョが収束したことによるアルゼンチンの大雨とブラジルの作物被害が一因である。 

図5:エルニーニョの発生後1年間に期日の10日前にロールオーバーした再投資した先物のリターン

Month El Niño Begins Corn Wheat Soybeans Soybean Oil Soybean Meal Rough Rice Live Cattle Feeder Cattle Lean Hogs Dairy
1: Aug '63 5.0% -0.1% 1.1%              
2: Jul '65 5.0% 17.7% 26.8%       4.7%      
3: Jan '69 -4.4% -3.5% -4.2%       16.6%      
4: Jul '72 72.6% 63.7% 112.7%       29.1% 30.3%    
5: Sep '82 45.2% -8.8% 36.8% 59.1%     10.3% -15.6%    
6: Nov '86 -12.9% -1.2% 11.3% 4.1%     24.5% 19.8% 34.3%  
7: Nov '91 -21.8% 2.3% -4.7% -2.8% -17.1% -26.3% 9.7% 15.0% 9.9%  
8: Dec '94 30.7% 21.6% 14.3% -3.0% 22.3% 15.7% 2.4% -10.8% 24.0%  
9: Jun '97 -13.4% -38.5% -5.2% 2.6% -18.1% -5.7% -11.4% -13.5% -23.1% 25.7%
10: Oct '02 -13.7% -21.8% 33.8% 22.9% 36.7% 33.7% 43.0% 25.7% -12.7% -1.8%
11: Oct '09 22.7% 15.7% 18.9% 19.7% 22.1% -12.6% 12.3% 4.7% 22.5% 11.7%
12: Jun '15 2.6% -18.8% 20.0% -10.7% 26.1% -2.3% -22.9% -27.4% 10.6% -9.4%
Average 10.4% 4.3% 22.0% 14.6% 9.2% 0.9% 14.1% 6.9% 9.2% 11.9%

出所:Bloomberg ProfessionalおよびCMEグループ・エコノミック・リサーチによる計算

ボラティリティ

ボラティリティは、エルニーニョ期に過去平均水準に接近する傾向にあるが、一般的に言えば、エルニーニョの強度が高ければ、農産物の価格のボラティリティが大きくなる。直近のエルニーニョは、トウモロコシ、大豆、小麦のボラティリティは急伸したため、特に過去3ヶ月間においてこの経験則の例外ではなかった。先物価格の日次変動の標準偏差(年率)で測定した、過去1年間のトウモロコシの実現ボラティリティは平均26.27%だった(図6)。1959年以降に発生した12回のエルニーニョ期では、トウモロコシのボラティリティは平均20.04%にとどまり、平年(エルニーニョもラニーニャのいずれも発生無し)は平均20.68%であった。  

図6:トウモロコシの実現ボラティリティはエルニーニョの強度を受けて予想以上に高かった

同様に、2015年6月から2016年6月までの間の大豆の実現ボラティリティは24.09%で、エルニーニョ期と中立の期間の過去の水準より約2%高かった(図7)。これは、エルニーニョの強度を勘案した場合に予想される状況と、過去11回発生したエルニーニョ期における大豆市場の動向にきっちり沿っている。 

小麦価格と小麦の実現ボラティリティはともに、トウモロコシや大豆のいずれかよりもエルニーニョからの影響が少ない傾向にある。そうとはいえ、直近のエルニーニョにより、2015年6月から2016年6月の間に26.69%と、平均をやや上回る小麦のボラティリティが発生した。これまで、小麦のボラティリティは、11回のエルニーニョ期と中立の期間において23%近辺で推移している。 

図7:エルニーニョの強度を踏まえると大豆の実現ボラティリティは予想に接近している

図8:エルニーニョの影響は、小麦の実現ボラティリティが高まった要因かもしれない

図9:トウモロコシと大豆のオプションのインプライド・ボラティリテは2016年4月以来急伸

2016年4月に公表したレポートにおいて、トウモロコシ、大豆、小麦のオプションが急騰する可能性を示唆して警告を発した。オプションのインプライド・ボラティリティは、トウモロコシと大豆を中心に、2016年初頭に過去最低水準に向かって下げていた。実際、エルニーニョが収束して、南米の一部の大雨が降ったことで、トウモロコシと大豆のボラティリティは上方に向かって急伸し、 2012年以来の高水準に達した(図9)。小麦のインプライド・ボラティリティも同様に上昇したが、上昇幅は同じ程度ではなかった。

エルニーニョが収束して強力なラニーニャに変化すれば、今後数年間において、高いボラティリティーは常態になるかもしれない。これまで極めて強力なエルニーニョは、12~24ヶ月以内にラニーニャに変化した。これは、1972/73年、1982/83年、1997/98年のエルニーニョの発生後の状況である。ラニーニャの発生には、穀物・大豆市場全般で極めて高水準のボラティリティを伴っている。一般的に、ラニーニャが強力であればあるほど、ボラティリティが高まる。これは、今後予定されるレポート:「ラニーニャが発生すれば、農産物市場が混乱するだろうか」 のテーマにする予定である。

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著者について

Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミストです。世界の金融市場に関する経済分析の責任者であり、最新のトレンドと経済要因を評価することで、CMEグループのビジネス戦略、および当グループの市場で取引を行う顧客への影響を分析します。CMEグループのスポークスパーソンの一員でもあり、世界経済、金融、地政学の情勢に関する見解を発信しています。

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